(ジョゼフ・ファヴロの「月を持つピエロ」(1983年)と「シルク・フェルナンドの道化師」(1885年)ワイズマン&マイケル蔵)
「ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に」(パナソニック汐留美術館)へ行きました。
「ベル・エポック(良き時代・美しき時代)」とは、フランスにおける19世紀末から1914年に第一次世界大戦が勃発するまでの約25年間、平和と政治的な安定を享受した時代を指します。
ベル・エポックというと芸術のイメージがありますが、展覧会では美術のほかに工芸、舞台、音楽、文学、モードに科学の分野にも触れ様々なジャンルで開花した文化を紹介しています。
展示物が200点以上のあるようなボリュームなので、今回は気になった「ワイズマン&マイケルのコレクション」と女性の活躍について書きたいと思います。
ワイズマン&マイケルのコレクション
今回の作品の多くは、デイヴィッド・E.ワイズマンとジャクリーヌ・E.マイケルのコレクションで往時のモンマルトルの世相を反映した絵画やリトグラフ、ポスターなど展示しています。
なんとなく聞いたことのある「ベル・エポック」だけど、やはりワイズマン&マイケルのコレクションを見るとベル・エポック期ってこんな時代だったのかというのを体感出来ます。
その中でも、私が知っている画家はトゥールーズ・ロートレックくらい
その分、個人の作家を丁寧に追うというより視覚に入る全体的なものでモンマルトルやムーラン・ルージュの華やかで平和な時代の空気を感じベル・エポックの余韻に浸ることが出来ました。
モンマルトルのスター・歌手ブリュアンを描いたロートレックの作品は、「ロートレック展 時をつかむ線」(SOMPO美術館)でも見たけどこの赤いスカーフと黒いマントが印象的です。
卓越した線描の力・「ロートレック展 時をつかむ線」に行きました。
デフォルメした姿が、一目見て彼だと分かるポスターですががちょっと意外だったのが、会場の外のVTRのコーナーの映像で少し流れたブリュアンの歌声が、体形からバスのようなずしりとした低音ボイスかと勝手に想像していたがそこまで低くなく語り掛けるように歌っていたことです。
100年くらい前に録音技術があったのかと思い調べたらそれより少し前にエジソンが蓄音機を発明していて、そのお陰で彼の肉声に触れることが出来、絵の中だけだった架空のブリュアンに人肌が感じられ実在した人物として親しみを覚えました。
歌やダンス、フレンチカンカンで有名なキャバレー「ムーラン・ルージュ」の開店を告げるシェレのポスターです。
ムーラン・ルージュとはフランス語で「赤い風車」を意味し、このポスターでは真ん中の赤い風車に向け皆が向かっていく様子を軽快に描いています。
女性達の軽やかな感じが、開店前の高揚感を伝えていますね。
「今夜の演目 ロドルフ・サリのかの有名なシャノワール一座 シャノワールの有名な影絵劇 シャノワールの詩人 シャノワールの作曲家」
と記されてる黒猫のポスターは、パリ・モンマルトルに有名なキャバレー「シャ・ノワール」の巡業公演を告知するポスターです。
これらのポスターは、どれもお洒落で今でもそのまま使えそうです。
女性達の活躍
ベル・エポック期は、パリが「芸術の都」というイメージを世界中に広めた時代であるとともに女性の活躍が注目された時代でもありました。
1900年頃の日本は明治時代の中頃で、男尊女卑の中で女性の地位は低く多くは、社会に進出する術も持てなかったです。
この頃のパリでは、フェミニズム運動も高まりを見せ教育を受け社会的自立を目指す女性が登場します。
物理学者のマリー・キュリーが、ノーベル賞を受賞、印象派のメアリー・カサットやシュザンヌ・ヴァラドンのような女流画家が現れ、舞台では女優のサラ・ベルナールが人気を博しルフォンス・ミュシャによるベルナールを描いた「サラ・ベルナール」(1896年)が展示されていました。
女性の社会進出を象徴するかのように、ファッションや装飾美術は優雅な曲線美から活動的なスタイルへと移行して装いも変化が起きます。
西洋で、足首が見えるファッションというのはカトリックの道徳的な意味からも長らくなかったのでこの時代にドレスの長いスカート丈がふくろはぎが見えるほど短くなったのは画期的だったのではないでしょうか
女性美の象徴であるウエストのくびれを強調するための「コルセット」もはずされ、シルエットは体の線を強調しない直線的な筒形になったことで機能的なものへと変化します。
(ポール・ ポワレがコルセットを放棄すると宣言したのは 1906 年です)
このような日本の和装から洋装になったくらいの劇的な服装の変化は、今まで服によって制限されていた生活や行動から解放され自由で活動的なものになったのでしょうか
過剰な装飾の服装がシンプルになった分、ドレスのポイントとして存在感のあるデザインのバックルが登場しました。
こんな装飾的なバックルが展示され、プラスチックや人造ダイヤなど新しい素材を使ったバックルもあり小物で差別化してお洒落も忘れず楽しんだ様子が伺えます。
1920年代には、モードは大きく変化しココ・シャネルのような女性デザイナーが出てきて女性の視点から革新的なモードを提案するようになりました。
この時代に女性の社会進出が進んだとはいえ、まだ絵画、ポスター、雑誌に描かれた女性は、女性性の消費の対象となっていました。
女性によるダンスも卑しいものとされ、その中でダンサーのロイ・フラーは、モダンダンスと舞台照明の技術と両方の分野のパイオニアとなりダンスを総合芸術の域に押し上げています。
この絵は、ロイ・フラーを描いた作品で、大きなひだのある衣装を使って踊る姿が幻想的です。
ベル・エポックにキューリー夫人まで出て来るとは思わなかったが、この時期に女性の活躍を後押しするような機運が高まったことはやはり画期的なことだと思いました。
しぼり菜リズム(まとめ)
「ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に」(パナソニック汐留美術館)へ行きました。
展覧会では美術のほかに工芸、舞台、音楽、文学、モードに科学の分野にも触れ様々なジャンルで開花した文化を紹介しています。
その中で、「ワイズマン&マイケルのコレクション」のモンマルトルの世相を反映した絵画やリトグラフ、ポスターがベル・エポックの空気を感じることが出来、往時を忍ばせます。
ベル・エポック期は、女性画家や女優、ダンサーの女性の活躍も目立ち、過剰な装飾の服装がシンプルになり自由で活動的になりました。
■「ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に」
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- パナソニック汐留美術館
- 2024年10月5日(土)〜 12月15日(日)