「神護寺 ─ 空海と真言密教のはじまり」(東京国立博物館)へ行きました。
平日の昼間に行ったので、年配の観覧者が多く、国宝の前は人が多かったけど比較的ゆったりと鑑賞出来ました。
神護寺
本展は、824年(天長元年)に正式に密教寺院となった神護寺の創建1200年の記念して開催された展覧会です。
高雄山寺と神願寺という二つの寺院がひとつになり神護寺が誕生し、唐から帰国した空海が活動の拠点したことから神護寺は真言密教の聖地として約1200年間の歴史を歩んできました。
空海の関わったお寺といえば東寺や高野山というイメージでしたが、唐から帰ってこのお寺でデビューし10年以上活動拠点にした空海にとって神護寺は、需要なお寺 だったことを初めて知りました。
神護寺は、日本三大名鐘の1つの梵鐘や薬師如来像、両界曼荼羅(高雄曼荼羅)など密教美術の名品や至宝のほか歴史を知る上で貴重な資料があります。
高雄山の中腹にある神護寺は、紅葉の名所としても有名で、清滝川のほとりで紅葉狩りを楽しむ人々と神護寺の伽藍が描かれた「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」(東京国立博物館)でも見た「観楓図屏風 (かんぷうずびょうぶ)」(狩野秀頼東京国立博物館蔵)が今回、展示されています。
京都は何度も訪れるもバス、徒歩で京都駅から1時間以上というアクセスという神護寺には行ったことはないのでとても楽しみな展覧会です。
空海
空海の生きた時代に制作された、彫刻・絵画・工芸の傑作のほかに空海に直接関わる作品である「灌頂暦名(かんじょうれきみょう)」や「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)」、「薬師如来立像」が面白かったです。
灌頂暦名(かんじょうれきみょう)
「灌頂暦名(かんじょうれきみょう)」(国宝)は、「灌頂」という儀式に集まった人の出席簿で結縁者の筆頭に最澄の名が記されています。
また、「灌頂暦名」は、真言密教の儀式が初めて行われた寺だという証でもあります。
能書家で三筆の一人ある空海の直筆だけど所々に訂正、加筆があり「弘法にも筆の誤り」と心の中で突っ込みましたが、これは、忘れないための下書きのようで、書き流した自由な字は空海の日常の書風として親しみが湧きます。
(実際「弘法にも筆の誤り」は、ここからきてるそうで、「灌頂暦名」は書道の手本としても人気があります)
両界曼荼羅
仏教美術では、たくさんの仏が規則正しく並んだ絵のことを曼荼羅と呼び曼荼羅は、複雑なお経の内容を絵にしたいわば「ビジュアルお経」ともいえるものです
空海が唐より持ち帰った密教の教え・二つの世界観を絵によって図示したのが「金剛界」と「胎蔵界」の「両界曼荼羅(りょうかいまんだら)」(通称「高雄曼陀羅」)(国宝)で空海が直接筆を入れたと伝えられます。
近年、痛みが激しく2016年か高雄曼荼羅の修復事業が始まり6 年の歳月を経て金泥や銀泥で描かれた仏様の一つ一つが蘇りました。
(修復前の痛みが激しい曼陀羅の表面から落ちた粉を分析する方法で調査した結果、当時希少だった紫色の染料が使われていたことが分かり天皇の勅願で作られたことがほぼ裏づけられたという新発見もありました)
曼陀羅は、「金剛界」と「胎蔵界」が対になっていますが、二つは入れ替えで展示され私が見たのは、前期展示の「胎蔵界」です。
大日如来という仏様を中心に太陽の光のように優しく力強く世界を照らしていて、仏教の「集まったもの」「満ち足りていること」「聖なる空間」というまさに曼陀羅の意味を表現していているようで、密教の教えそのものだというのが分かります。
近くで見ると修復後の金銀の精密な線が浮かび上がり、当時、空海が見上げた曼陀羅はこれだったのかと思いました。
一見地味だけど縦横4メートル四方の大きさは圧巻で、これだけのものを掛けられるお寺はそうないで神護寺だから作れたのでしょう
とにかく大きいので、描かれている仏や菩薩の数が多いこと
後で調べたら「金剛界」で1461尊、私が見た「胎蔵界」で409尊になるようで、寸分の過ちも許されないように描いたので費やした労力と時間はどれほどだったか
描かれた仏や菩薩の姿を輪郭線のみで写したものや解説映像も上映されていたので合わせて見ると詳細の姿が分かります。
曼陀羅の江戸時代、明治時代のコピーやこれまで2回の修復を行った記録もあり、いかにこの曼陀羅を後世に伝えたいと願った先人達の想いや篤い信仰心が感じられる展示になっています。
薬師如来立像
神護寺の「本尊」が博物館で展示されるのはかつてないことです。
本尊をお寺から外に出すこと自体かなかり太っ腹なことだと思います。
今回の目玉である神護寺の本尊の「薬師如来立像」(国宝)は、寺外では初公開となるそうで、仏像マニアの垂涎の的である仏像を造詣が深くないこの私もこの機を逃さず見ておきたいものでした。
この薬師様「非常に厳しい表情の彫像」だということですが、下から見上げて見ると厳しい表情というより不機嫌な表情に見えてしまいどちらにしても近寄りがたい雰囲気です。
(怖い顔なのは、呪いや怨霊を反撃、退散するためという説があります)
でも、日光・月光(がっこう)菩薩立像(重要文化財)脇侍(わきじ)が両脇にいて、カヤ材の一木から彫り出された体躯のボリューム感やお薬師さんゆえ薬壺(やっこ)を持った左手が胸の辺まで上げていてあらゆる病から人々を救ってくれる仏様らしく、数年前に大病をした私からみても頼もしさが感じられます。
薬壺(やっこ)が、可愛いと思っていたらグッツショップに薬壺をデザインした布製バックがありました。
薬師如来像は、平安彫刻史上の木造彫刻の最高傑作ということで、曼陀羅では、薬師如来ではなく「大日如来」が中心になっているのに大日如来本尊にしなかったのは、その造詣の美しさゆえに空海は、これを本尊に迎えたのかと考えてしまいます。
厨子に入っていない薬師如来像は様々な角度から見られ、衣の波打ちの美しさも堪能出来るような本展のような機会は二度とないかもしれません。
五大虚空蔵菩薩坐像
お寺では、多宝塔に横一列に並べられている「五大虚空蔵菩薩坐像」(国宝)が、会場では「法界虚空蔵菩薩」を中心に他の4躯が四方に取り囲むように展示されています。
このような展示なので、お寺では正面からしか見れないけれど坐像のまわりを廻りながら鑑賞出来る贅沢は博物館ならではの楽しみです。
薬師如来像とは違うどれも穏やか品のいいお顔をしていて、万人好みの美しい仏様です。
微かに残った色の分るものもあるが、元々、それぞれ白、黄色、緑青、赤、黒の身体をしていて、この5色はインドの事物の根源を表す色だそうです。
五大虚空蔵菩薩坐像は、曼陀羅の5つの如来を立体化したもので、立体化したことで曼陀羅を現実として見ることや近くに感じることが出来、より視覚に訴え曼陀羅に知識のない人でも引き込まれる効果があります。
五躯が揃って寺外で公開されることが初めてだそうで、これも貴重な機会です。
頼朝の肖像画
空海ゆかりの品々だけではなくほかにも見所が多くありました。
日本肖像画の最高峰「伝源頼朝像」「伝平重盛像」「伝藤原光能像」の、通称「神護寺三像」が揃って公開
この三像は、昨年の「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」(東京国立博物館)でも見て、再びお三方に会えた喜びを嚙みしめました。
国宝揃い踏み・タイミングを逃すな!「やまと絵展」病気の絵もある
今回も等身大のスケールに圧倒だったが、「やまと絵展」より近くで見れたので、前回は顔ばかり気を取られていたが今回、真っ黒だと思っていた黒装束に黒い唐草模様?が見えて新たな発見しました。
頼朝に関しては「伝」とあるように「伝わってはいるが、定かではない」という意味で最近の教科書からはこの肖像画の頼朝が消えたそうで「頼朝」イコール「伝源頼朝像」と教科書で刷り込まれた私は、一抹の寂しさを感じます。
日本では圧倒的に頼朝像の方が知名度が高いけれどフランスでは、平重盛像の方が人気があり頼朝さん横で嫉妬しているのではないでしょうか
頼朝が神護寺を支援していたことが分かる書状「源頼朝寄進状」「源頼朝下文」「源頼朝書状」(平安時代)も展示されていて頼朝は、空海の入定後、火災などで荒廃した神護寺の復興を支援しパトロンとして神護寺の救世主でもあったのです。
今回、唯一、写真を撮ることが出来たのが「神護寺二天王立像」です。
神護寺の楼門に安置されている二天王立像で、これだけ近くで見れるのは迫力が感じられていいですね。
離れて二躯一緒に撮影すると人が入ってしまうので、それぞれ撮影しました。
神護寺展は、見所が一杯あり特に記事に紹介した神護寺の国宝は、1つにつき1ページを割きたいほど書きたいものでした。
そのほか空海が、唐で師の恵果より託された「金銅密教法具」(国宝・東寺蔵)や空海亡き後も空海をリスペクトしたもの、真言密教にまつわる数々のものが1200年もの長き月日に渡り維持、残されてきたのは、信仰心や先人達の熱い思いがあったから
そういうことが伺える展覧会でした。
後期展示も含め文覚上人が、源頼朝や後白河法皇を動かし荒廃しかけた神護寺を復興させたことが知れる関連資料もあり神護寺には、命懸けで人を動かすようなパワーのあるのだと思いました。
しぼり菜リズム(まとめ)
「神護寺 ─ 空海と真言密教のはじまり」(東京国立博物館)へ行きました。
唐から帰国した空海が活動の拠点した神護寺の創建1200年の記念して開催された展覧会で、神護寺の国宝も多く展示
「灌頂暦名」は、灌頂の最澄など儀式に参加した空海の筆による名簿で訂正の箇所もあり興味深く、空海がかかわった「両界曼荼羅」は修復を終え当時の姿が蘇り真言密教の宇宙を体感、神護寺の本尊「薬師如来立像」は厳しいお顔ながら平安彫刻史上の木造彫刻の最高傑作の造形の美しい像です。
「五大虚空蔵菩薩坐像」は、展覧会ならでは並べ方で坐像のまわりを廻りながら鑑賞出来、肖像画の最高峰「神護寺三像」の等身大の大きさに圧倒され、衣裳の柄も見ることが出来ました。
■「神護寺 ─ 空海と真言密教のはじまり」
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- 会場:東京国立博物館
- 会期:2024年7月17日(水)~9月8日(日)