紀行文、滞在記のベスト10です。
ほとんど何十年も前のもので(新しくても10年くらい前か)、いかに最近、本を読んでいないというのが分かります。
ただ読んだ本の記録は 後から振り返ると自分がどういう道を通ったか分かるので面白いです。
今読み直せば、当時の視点とは異なるのでしょうがその頃の感性で書いてみました。
第4位:『チベットを馬で行く』渡辺 一枝
50歳で、標高4000mを超えるチベットの高原4,177kmを143日掛けて旅した渡辺 一枝のエッセイです。
この旅の特徴は、移動手段が「馬」で、何故、馬なのは、車では見落とすような人々の暮らしや文化を直で感じたかったからとのことです。
世界の辺境地域を旅する椎名誠の妻だけあって彼女は、子どもの頃のあだ名が「チベット」というくらいの大のチベット好き
だから、のんびりゆっくり全てを感じながらも過酷な気候や不安な政情の中でもこのような原始的な旅をなし得たのでしょう。
淡々とした文章の中に一途なチベット愛が感じられ、雄大なチベットの自然を詩情豊かに表現した箇所は、旅情を誘います。
同行した現地のガイド、コック、トラック運転手や馬方の面々もそれぞれ味があって皆、好青年
旅の仲間でもあります。
(彼らには、かなりよくしてもらっていて、豊富なコミュニケーションの交換や弾むものものもきちんと弾んだというのが想像出来ます)
彼らとのやり取りは旅のいいスパイスで、旅の終わりは別れでもあり一抹の寂しさを感じました。
また、地元民や専属コックが振る舞う料理やバター茶が美味しそうで食指を誘います。
そんな中でも高原の広い空の下、自身の家族への想いを馳せ、母としての在り方を問う場面がありどこに居ても大切な人への想いは変わらないのだと思いました。
それにしても、馬の後にサポートトラックも同行したこういう旅って、誰もが経験出来ない究極の贅沢なのだと思いました。
第3位:『富士日記』武田百合子
作家武田泰淳の妻である武田百合子が、自身の別荘である富士山麓の山荘で書いた日記です。
椎名誠の妻である渡辺 一枝にも武田百合子も著名な作家の妻であっても一個人として、面白いものを書く
むしろ夫氏より好きかもしれない。
昭和の高度成長期に書かれた日記は、主婦目線で毎日、料理や買ったもの食べ物のこと値段も書いてある単なるプライベートな日記に過ぎないけれど読んでいて全然飽きないのです。
夫を乗せて東京の自宅と別荘を自家用車で行き来して、朝起きて、散歩してお昼を食べて、買い物をして夕食を作ってお風呂に入って寝ましたと
暮らしの中で目にしたこと、聞いたことを余さず書き残しいて、飾らぬ口調でときにはユーモラスであります。
鋭い観察眼とズバッとした物言いも嫌味にならないのが、パワフルで屈託ない彼女の魅力によるものが大きいです。
夫や娘、近くに住む大岡昇平夫妻との交流を語り、自然や季節の移ろいを独自の視点と感性で綴ります。
何を買ったか、何を食べたか、どこを掃除したか
そんな日常行為そのものが、その人自身がどんな人で何を考えているのか手に取るように分かるから不思議です。
高度成長期の勢いや大らかさ、社会情勢や文化的背景も行間から垣間見え
書かれていることは小説でも何でもない単なる日々の記録なのだけど不思議と文学作品のように香り高いのがこの著書です。