「キュビズム」って何ぞや?
20世紀美術の西洋画の展覧会に行くと「キュビズム」作品がありよく躓きます。
ピカソ、クレー、マティス。難しい「キュビスム」にもちょっと触れて
これは、「いったい、キュビズムって何ぞや?」
という疑問で、いくつかのキュビズムの作品を展示している美術館に行っても結局は、分からないのです。
だから、少しでもキュビズムについて何か分かればいいとキュビズム作品が約140点(日本初出品作は50点以上ある)50年ぶりの大キュビズム展へ行きました。
それが、パリのポンピドゥーセンターと国立西洋美術館の共同企画の「キュビズム展 美の革命」(国立西洋美術館)で、これだけのキュビズム展はもうないだろうというもので「キュビズムって何ぞや?」という私には見逃せない企画です。
キュビズム展では、20世紀美術に「革命」をもたらしたキュビズムの全体像に迫るもので、キュビズムの始まりから社会現象となるまでどう発展し広がっていったのかの流れが分かるように展示しています。
セザンヌ
展覧会ではキュビズムの始まりは、セザンヌとしています
撮影可能だったこの絵では、どこがキュビズムか分からないというよりキュビズム要素は見当たりません。
撮影禁止だった「ラム酒の瓶のある静物」(1890年頃)では、キュビズムの始まりを感じさせます。
この絵は、不思議な絵で上から見たようにも斜めから見たようにも、また水平に見ているようにも見え、1枚の絵の中に「複数の視点」からの形が描かれていています。
(複数の視点が組み合わさったように見えるのがよく分かるのが、オルセー美術館にある「リンゴとオレンジ」です。)
1つに平らな面では起こらないことを描いたこの絵は、布で隠れた机の面にも違和感あり見る方向によってテーブルの上にあるものが滑り落ちてしまってもおかしくない構図です。
この絵の何が、キュビズムの始まりかというと絵画に現実にはあり得ない「多視点」の手法を取り入れいる点です。
セザンヌの「現実にはあり得ない」表現方法は画期的で、ピカソやブラックに影響を与えます。
ピカソ、ブラック
セザンヌの現実にはあり得ない「多視点」の手法に衝撃を受けたピカソとブラックは、その理論を発展させ「形」の解体を試みます。
形を解体し再構築したのがブラックの「レスタック高架橋」で
遠近法を無視した描き方、簡素化した建物の描き方などは、これまでの絵画にはなかったもので、何も写実的にしなくてもいいではないかという流れを作ります。
この絵は、建物にキューブ感があり「キューブ(立方体)」と評されたことがキュビズムに由来します。
ブラックととにピカソもキュビズの「対象を多面的に捉えて分解、これを再構成した絵」の実験をやっており
遠近法無視、複数の視点から見たものを1枚の絵に入れる、デフォルメして幾何学的に単純な形態で描く、画面の並べ方などの大胆な構成方法で描いています。
というか分解し過ぎて何を描いているのか分からないです。
ブラックも描く対象を複数の視点から捉え、幾何学的な形で構成し現実にある対象や人物を「現実にはあり得ない」描き方で、今までとは違うリアリティーを追求しました。
背景も切子細工のように刻まれた人物や楽器、家具とタイトルや解説を見ないと分からないです。
ピカソやブラックが新たな提案をしたキュビスムは、さらに多くの芸術家を巻き込みトレンドになっていきますがどうしてキュビズムがそんなに社会現象になったかです。
それは、キュビズムが従来の常識を壊した革命的なものだったからです。
従来の常識とは、ルネッサンス以降続く絵は窓で目に見えたものを正確に描くかということで
そのための遠近法や陰影を重視してきました。
この頃、カメラが発明され写真が浸透してきて写真で実写というリアルを表現出来てしまうと絵画にしか出来ないものを求めてるようになります。
そんなとき、従来の西洋画に変革を求めていた多くの芸術家達のツボにハマったのがキュビズなのです。
ルネサンス以降19世紀迄延々と続いていたヨーロッパの絵画における空間の考え方を現実にはあり得ないもの、例えば、見えないはずの面を同時に描く方法論をセザンヌが発明し、ピカソやブラックの実践によって完全に変えたのです。
キュビズムの「現実にはあり得ない」表現方法のセザンヌが第一人者としても他にも影響を与えたのがあります。
貿易が盛んになると海外からもアフリカ彫刻や浮世絵なんかも入って来て、これら西洋の常識とは違う平面表現、遠近法無視、輪郭線も描いてしまうみたいなものに触れると目から鱗
「どんな表現方法でもいいのだ」と柔軟に考えるようになります。
そういえば、「やまと絵展」で見た「紫式部日記絵巻」(鎌倉時代)も、上から横から視点が2つある描き方をしていて
国宝揃い踏み・タイミングを逃すな!「やまと絵展」病気の絵もある
もし、これをピカソやブラックも見ていたら西洋以外の斬新な表現にびっくりしていたでしょう。
キュビズの広がり
キュビズムは更なる広がりを見せ、自在なものへとなっていきます。
その一つが、ドローネ「パリ市」
「パリ市」は、神話の三美神、ルソーの自画像の背景、パリの象徴的な建造物であるエッフェル塔と古典、名画、現代と様々な時系列を題材を同時に入れ
色々な面に割って、様々なものを雑多に入れるというキュビズムルールに従いつつ考え方を応用してドローネやレジェが抽象画への道を開きます。
ピカソブラックの色を使わないのに比べ色彩を多用し、一番見せたいところを効果的に見せています。
コラージュのようで、色も綺麗ですよね
段々と描いているのか分からなくなってきたので、絵具に異素材の混入し描き分けたり、例えばコラージュのように譜面の表現には譜面の切り抜きを貼ったりしそのものらしさを説明するものも出てきました。
コラージュといえば、色々なものを組み合わせたコラージュもキュビズムから出てきたものです。
進化したキュビズムで、表現方法が面白かったのが「自転車乗り」です。
キュビズムの多面的、立体的にデフォルメというのを入れて動きやスピード感を表現して理論をうまく調理しています。
意外だったのが、シャガール、モデイニアーニ、ル・コルビュジエなどもキュビズムをかじっていることです。
マティスも一時期、迷走してキュビズムをやっていて、「マティス展」で見た娘のマルグリットの着ていた洋服や頭部のフォルムを幾何学的に変換して「白とバラ色の頭部」を描いています。
↓これは、モジリアーニの絵ですが、キュビズムの文脈に沿っているのかな?
アーモンド型で瞳がないところは、モジリアーニですね。
多くの20世紀初頭の画家は、キュビスムを吸収しながらも独自の表現を追求していったことが分かります。
ただ、「四角い洋服を着ればキュビズム作家になるのではないか」とか揶揄され小ばかにするような映像や南仏の四角い帽子をかぶった巨大な人形が載せられた「キュビスム山車」の絵葉書を見れば、当時の何でもキュビスムという風潮は、必ずしも好意的なものばかりではなかったようです。
さらにキュビスムは、多ジャンルへと広がり、彫刻、建築、映像キュビスムを建築や室内装飾へと展開する試みがなされました。
鍋の蓋、ビデオテープ、ブランコ色々なものをごた混ぜにしたようないろんなものが目まぐるしく動いている
キュビズムの絵画を映像化したらこんな感じなのかというレジェの映像です。
最後のスペースに会場である国立西洋美術館を設計したル・コルビュジエの絵画があってびっくりしましたが、建築に専念する前にキュビスム的作品を描いていたようです。
キュビスムとの出会いが、ル・コルビュジエの合理的で機能的な建築の原点があるのかと思いました。
キュビスム
沢山のキュビスム作品を見て、「奇麗な絵だなあとか本物そっくりだ」という視点で見ると面白くもなんともないのがキュビズムだと思いました。
キュビスムが行き過ぎて、何を表現しているのか分からないものより初期のセザンヌのバランスの取れたほどほど感は安心するし単純に美しい絵だと思っていました。
でも、キュビスムの本質に少し触れてやっと難解なピカソの作品にも興味が持てるようになりました。
いかに本物と違わないように描く必要はないのだから、画家が主体となって自由な視点で自律的に描く、具体的なものの本質だけを捉えていこうというものがキュビズでもあるのだと思いました。
キュビズムが出てこなければ抽象画も生まれなかったし、画はここから変わったのだし絵画の在り方を変えたと考えると現代アートは、キュビズムから生まれたといってもいいと思います。
逆に言うとキュビズムがなければ、現代アートは生まれなかったのでしょう。
アートの役割の一つは、既存の価値を揺るがすことで、セザンヌやピカソ、ブラック、続くキュビスム作家達は、常識やルールを壊していく革命者だったのです。
しぼり菜リズム(まとめ)
キュビズムのことが知りたくてパリのポンピドゥーセンターと国立西洋美術館の共同企画「キュビズム展 美の革命」(国立西洋美術館)へ行きました。
キュビズムの始まりはセザンヌによるものとし「多視点」の手法を導入し、絵画に現実にはあり得ない視点からの形を描きました。
ピカソとジョルジュ・ブラックは、セザンヌの影響を受けながら、形を解体して再構築する試みを行い、遠近法を無視した描写や幾何学的な形態を導入しました。
ブラックの「レスタック高架橋」において、建物にキューブ感があり、「キューブ(立方体)」と評されたことが、キュビズムという言葉の由来となりました。
キュビズムは、遠近法の無視、複数の視点からの描写、デフォルメ、幾何学的な単純化などがキュビズムの特徴と写実的に描く従来の美術の概念を覆し、芸術家達に新たな表現の可能性を示しました。
ピカソやブラックだけでなく、シャガール、モデイニアーニ、ル・コルビュジエなど様々な芸術家も取り入れながら、各々が独自のアプローチを追求していきます。
キュビズムは、絵画だけでなく、彫刻、建築、映像など様々な分野に広がり、アートの新しい方向性を示しました。
写実性よりも表現の自由さを追求したことで、画家が主体となって自由な視点で自律的に描く、具体的なものの本質だけを捉えていこうというものなり、抽象画を始め現代アートへとつながっていきます。
■「キュビズム展 美の革命」
- 会場:国立西洋美術館
- 会期: 2023年10月3日(火)~ 2024年1月28日(日)