沖縄の布
『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』 ( 東京国立博物館)を見に行って、目に留まったのが沖縄がかつて独立したひとつの国であった「琉球王国」時代の紅型染めや芭蕉布の衣装や布です。
元々、沖縄の紅型や紬や芭蕉布などの「布地」が好きで興味がありました。
琉球王朝時代、王族が使用する織物を久米島や宮古、八重山に発注するために描かれた「御絵図帳」もあって実物を見たくなりました。
これらは、中国や周辺国への貢ぎ物や貿易品でもあります。
中でも亜熱帯を中心に分布する植物芭蕉を原料とした織物の「芭蕉布」は、琉球王国では、王宮が管理する大規模な芭蕉園で芭蕉が生産され王族が身に着けていました。
また、中国(清王朝)や江戸時代の徳川家への最上の貢ぎ物でした。
芭蕉布で織られた衣裳のサラリとした風合いと素朴な色合いが魅力です。
肌に纏わりつかず、薄くて軽い張りのある感触から、汗をかきやすい高温多湿な地域の夏にでも涼し気で奄美から沖縄、南西諸島の風土に合い普及しました。
先人達がその土地や気候に合った植物から創意工夫により芭蕉布を生産していたのだと推測されます。
芭蕉布は、琉球では王族から庶民まで着用されていました。
琉球王国時代は、士族が赤や黄色の芭蕉布を着用していましたが、庶民が着用出来たのは生成りや茶色のものに限られていたそうです。
芭蕉布・人間国宝・平良敏子
『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』で見た 軽やかで独特の風合いの織物の芭蕉布に興味を持ち、次に行ったのがこちらの展覧会です。
『芭蕉布ー人間国宝・平良敏子と喜如嘉の手仕事』(大倉集古館)
着物で入場すると割引があるので着物姿の女性が多かったです。
(私も沖縄をイメージした南国柄のワンピースで観覧。)
沖縄で途絶えつつあった芭蕉布作りを、「工芸」に高めたのが、喜如嘉(きじょか)の平良敏子さんです。
平良敏子さんは、1921年、沖縄県国頭郡大宜味村喜如嘉(きじょか)に生まれ、御年101歳です。
平良敏子さんは、20代で勤労隊として倉敷に赴いたとき民藝運動に熱心倉敷だった倉敷紡績の大原総一郎社長に織物を学ぶ機会を得て沖縄の織物を守り育てようと芭蕉布と共に生きる決意。
それから技術を磨き、後継者育成に励み、1974年には「喜如嘉の芭蕉布保存会」が国指定の重要無形文化財保持団体に認定されます。
2000年に平良敏子さんが重要無形文化財「芭蕉布」の保持者に認定され「人間国宝」になりました。
気が遠くなる作業工程
平良敏子さんの芭蕉布の反物が出来るまでの工程を会場のビデオ映像で見ました。
びっくりしたのが、芭蕉布を作るのに糸芭蕉の栽培から始めることです。
芭蕉農家に任せればいいと思うのに(存在しないのか?)、芭蕉布作家自らが3年掛けて栽培し収穫。
(背丈を超える大きさに育った芭蕉を収穫するのは、結構な肉体労働です。)
糸芭蕉から繊維を採り出し、一本の糸を作り、染色し、高機(たかばた)で織り上げます。
織り上げた芭蕉布はさらに、木灰汁(もくあく)で炊き、水洗いし、米粉とお粥を発酵させた「ユジナ」で揉み、芭蕉布独特の色としなやかさを出しています。
染料はすべて天然染料で、主に琉球藍(りゅうきゅうあい)とテカチ(シャリンバイ)を用いています。
製作工程だけで23あるとい気の遠くなる工程を経てようやく反物になります。
芭蕉布は、全て手作業で手間と時間を要する素材、染料なども全て自然の素材から作ります。
究極のマンパワーとハンドメイドで、地下のミュージアムショップの芭蕉布を使ったグッズが高額なのが納得出来ました。
(見るだけに留めた1点ものの芭蕉布の布を張った団扇が5万円、暖簾が35万円ほどでした。)
何故、惹かれるか
芭蕉の繊維は、ゴワゴワとして麺や絹より硬く乾燥すると切れやすいので熟練の技術が必要です。
映像の平良敏子さんは、高齢だけど畑仕事などの肉体労働と繊細な手仕事の両方をこなしていました。
このように芭蕉布は、手仕事ならでは温かみに加えて時間と労働の積み重ねが1枚の布に凝縮された唯一無二のものです。
そのまま美しい至極の工芸品であるとともに「民藝運動の父」と呼ばれた柳宗悦も魅せられたように普段着として日常的に用いられる「用の美」を備えているところにも惹かれます。
日常使いなんだけど高級品という贅沢なものです。
本当の魅力は、その布を纏って初めて分かるのだと思うのですが、そんな機会は訪れそうにないのでこうして展示された作品を見て手織りの布にまつわる背景や息遣いを感じ思いを馳せるのです。
しぼり菜リズム(まとめ)
『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』 で、「琉球王国」時代の紅型染めや芭蕉布の衣装や布が目に留まり特に「芭蕉布」に興味を持って見に行ったのが『芭蕉布ー人間国宝・平良敏子と喜如嘉の手仕事』です。
沖縄で途絶えつつあった芭蕉布作りを「工芸」に高めたのが、人間国宝の平良敏子さん。
平良敏子さんは、ご高齢にもかかわらず芭蕉布の原料である芭蕉の栽培から始め糸芭蕉から繊維を採り出し、一本の糸を作り、染色し、織り上げます。
芭蕉布は、全て手作業で手間と時間を要する素材、染料なども全て自然の素材から作り畑仕事などの肉体労働と繊細な手仕事の両方をこなしていきます。
芭蕉布は、手仕事ならでは温かみに加えて時間と労働の積み重ねが1枚の布に凝縮された唯一無二のものです。
そのまま美しい工芸品であるとともに「柳宗悦も魅せられたように普段着として日常的に用いられる「用の美」を備えているところにも惹かれます。
■『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』
- 東京国立博物館他
- 2022年5月3日(火)〜6月26日(日)
■〈特別展〉『芭蕉布 ―人間国宝・平良敏子と喜如嘉の手仕事』
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- 大倉集古館
- 2022年6月7日(火)〜7月31日(日)