「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」(国立西洋美術館)へ行きました。
「印象派」といえば、光と色彩が織りなす印象、空気感、季節の移り変わりの変化を繊細なタッチと色使いで描いた主に戸外の風景を思い浮かべますが、今回は、お馴染みエドゥアール・マネ、クロード・モネ、オーギュスト・ルノワール、エドガー・ドガ、ポール・セザンヌといった巨匠達の単なる印象派の展覧会ではなく「室内」というテーマに特化した展覧会です。
印象派展は、やはり日本では抜群に人気があるが平日の開館直後に行くと館内のロッカーも空がありあまり並ばずに入れますが、やはりお昼近くになると入場待ちの長い列が出来ていました。
(グッズ購入は、長い列が出来ていました)
印象派といえばパリ・オルセー美術館で、美術館所蔵の作品約70点が来日しました。
入場後は、やはり人が多く入ってすぐや人気の絵は、並びながら見なくてはならず時間が掛かるので、絵の前に人が少ないものから見ていきました。
ドガとルノワール
一番、印象的だったのがドガの「家族の肖像(ベレッリ家)」です。

「家族の肖像(ベレッリ家)」エドガー・ドガ 1858~1869年
同じ印象派でもモネを始めとする「自然の光」をリアルに描くアウトドア派と違い「室内」や人物の絵を多く描いたインドア派のドガは、画家の独自の視点や心情が描き出されていることが多く現代生活や人間らしさを描いています。
ドガは踊り子など日常の一場面を切り取る作風が得意で、この絵もまさに「現代生活のリアル」を描いていて、イタリアに留学中のドガが叔母とその家族(夫と娘二人)を描いていているが絵から家族の和やかな団欒とは全く異なる不穏な空気感が伝わってきます。
事実、叔母は、イタリアの独立運動に参加し政治亡命をした夫に嫌悪感があり、夫もそれを察して居心地が悪いように見えます。
(硬い表情の叔母は、叔母の父(ドガの祖父)が亡くなったばかりで喪服を着て喪に服していることから精神的にも不安定だったと想像されます)
交わらない夫婦の視線、ひしひしと伝わる家族間の心理的な距離…
話はそれるけど美術館に行く途中、上野公園を歩いていてすぐ先を歩いていた熟年夫婦らしきカップルが、突然立ち止まって「そんなに俺といるのが不愉快だったら帰った方がいいんじゃない?」と夫「なら、帰れば」(妻)みたいな会話をしていた直後ご主人が妻とは反対方向に帰ってしまいました。
奥様は、夫を追い掛けることなく目的の方向へ歩いていたので夫婦喧嘩後、家に帰った夫婦のぎくしゃくした関係はこんな空気なのかとつい想像してしまいました。
この絵が、ことのほか心を揺さぶったのは、人間の負の側面を表現しているだけでなく親子4人がくっきりと立ち上がるほどの存在感があり、4人の存在感は、単なる肖像画の枠を超え一つの「家庭内のドラマ」として訴えるからでしょうか
後でパンフレットを見て気が付いたのがフレームから逃げ出すように描かれた犬の体の一部が見え、(犬は忠実、忠誠を表すがそぽっぽを向いているのは…)この家庭の息詰まる空気から逃れたい心理を表しているように見え面白いです。
見方によって様々な物語が紡がれ想像の世界で遊べそうです。
絵をじっくり見ると室内空間の描写が素晴らしい
背後の暖炉の上にある大きな鏡には、画面には映っていない室内の別の場所や光が反射して閉鎖的な室内に奥行きと広がりを与えています。
画面左側からの窓の光が、黒い喪服の叔母と白いエプロンの娘達を浮き彫りにし彼女達の存在感をより際立たせ、その光も均一に当てるのではなく影を強調することで、家族間の緊張感や心の隔たりが伝わってくるのです。
ドガは都会の人間生活に強い関心を持っており、バレエの絵にしても華やかな芸術としてだけでなく社会的な暗部や金銭的な力関係、貧困などを炙り出し単に綺麗ごとだけではないリアリズムを表現してそれを芸術に昇華しているのはやはりドガならではです。

「ピアノを弾く少女たち」ピエール=オーギュスト・ルノワール1892年/「両面譜面台」トーネット兄弟社1873~88年(原型)
ルノワールの「ピアノを弾く少女たち」は、同じ室内の人間関係ではドガが描く「不和」とは全く対照的で「幸福」の象徴のような絵です。
右の木製の両面譜面台は、当時のブルジョワ家庭の優雅な室内空間を演出する道具で少女達の柔らかな髪や肌、室内の調度品、暖かな色彩とブルジョワ家庭の和やかな日常を体現して見るものを暖かな気持ちにさせてくれます。
実は、ドガの絵のインパクトでルノワールの名作が少し霞んで見えてしまったが、ルノワールの「絵画は、楽しく、美しく、愛らしいものでなければならない」という信念を表現した絵で、「人間生活の深淵」を見つめたドガと「日常の美しさ」を信じたルノワールの全く異なるアプローチの二人の作品を同じ空間で見比べられたのはよかったです。
その他

「温室の中で」アルベール・バルトロメ1881年頃
この絵とマネキンに着せられた「実物のドレス」が並べて展示されていたので興味を持ち、何故「ドレス?」と思っていたら
自宅の温室で妻を描いた作品だけどこの後、妻は若くして亡くなりバルトロメは悲しみに暮れこの絵のドレスを生涯手放さなかったという切ない背景があることを知りました。
妻の立っている温室は、印象派の画家達にとって温室の植物の緑、そして紫のドレスを着た妻の姿と室内画の一種であるとともに建物の「外」でありながら「内」でもあるという特別な空間だそうで室内に刺し込んだ屋外の強烈な光も立派な主役のように感じます。
野外のイメージの強いモネの人物を描いた室内画「ルイ・ジョアシャン・ゴーディベール夫人」(1868年)があったが、モネの関心が、人物の表情よりも光を反射する布や色彩に向けられていたように見えモネらしいのかと思いました。
今まで美的満足感が得やすく感覚的に受け入れやすいモネなど印象派の外光を描く絵と比べてドガのような室内の絵は関心が低かったが、「室内」という限られた空間で描く近代社会の複雑な人間関係の内面に関心を向けた絵もこれから興味を持って見れそうです。
しぼり菜リズム(まとめ)
「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」(国立西洋美術館)へ行きました。
「印象派」の「室内」に特化した展覧会で、一番、印象的だったのがドガの「家族の肖像(ベレッリ家)」で、独自の視点や心情が描き出され現代生活のリアルや人間らしさを描いています。
この絵のようにドガは都会の人間生活に強い関心を持ち社会的な暗部や金銭的な力関係、貧困などを炙り出し単に綺麗ごとだけではないリアリズムを表現してそれを芸術に昇華しているのはやはりドガならではです。
ドガと対照的なルノワールの「絵画は、楽しく、美しく、愛らしいものでなければならない」という信念を表現した「ピアノを弾く少女たち」のドガとは異なるアプローチの二人の作品を同じ空間で見比べられたのはよかったです。
今まで感覚的に受け入れやすいモネなど印象派の外光を描く絵と比べてドガのような室内の絵は関心が低かったが、「室内」という限られた空間で描く近代社会の複雑な人間関係の内面に関心を向けた絵もこれから興味を持って見れそうです。
■「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」
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- 国立西洋美術館
- 2025年10月25日(土)~2026年2月15日(日)







