ドラマや映画でおなじみの「大奥」(特別展「江戸☆大奥」東京国立博物館)の世界を覗いてきました。
大奥展
大奥は、ドラマや小説や浮世絵、歌舞伎など取り上げられてきましたが、今回は、面白おかしく描く大奥の人間模様よりもう少しリアルに大奥の世界を知ろうという展覧会です。
「大奥」というそのものズバリのタイトルのドラマは見たことがないけど、以前に見たNHK大河ドラマ『篤姫』で描かれた大奥が私にとっての大奥です。
大奥は、江戸城(現在の皇居)の本丸御殿の奥深くに、徳川将軍の御台所(みだいどころ)や側室、女中達が暮らす将軍家のプライベートつまり秘された特殊な空間で、江戸時代の大衆にとっては到底伺い知ることの出来ない世界でした。
その大奥の礎を築いたのが春日局
春日局は、三代将軍徳川家光の時世に徳川家直系の子孫に将軍を継がせるために大奥を作り、主に将軍の世継ぎとなる男子を産み育てることを目的としました。
お世継ぎの確保は幕府の存続に関わる重大事項ということで、将軍とその正室である御台所の生活を支えるために3,000人規模の大奥という組織が出来上がったのです。
大奥のヒロイン
展覧会では、歴代大奥のヒロインお玉の方、お伝の方、篤姫、和宮に関する展示が興味深かったです。
まず将軍の側室で有名なのが桂昌院(お玉の方)で、お玉の方は、京都の八百屋の娘だったけど五代将軍綱吉を生み育て将軍の母となり破格の(春日局より上の)地位と財を得て「玉の輿(たまのこし)」という言葉の語源となった方
そのそのお玉の方の所用と伝わる振袖が、第3章「ゆかりの品は語る」の冒頭に展示

「振袖 黒綸子地梅樹竹模様」桂昌院(お玉の方)所用 17世紀
摺匹田(すりびった)も黒茶染の当時最新の染色技法を用いたもので、上半身に広がっていく梅の枝と華やかに開く梅の花が印象的で、その広がりが庶民から権力者へと変転した人生の象徴ともいえるように見えるお召し物です。
次に目を奪われたのが、お玉の方の子・将軍綱吉から瑞春院(お伝の方)への贈り物です。
彼女も下級武士の家の出ながら、桂昌院(お玉の方)にお仕えする侍女であったが、綱吉の寵愛を得て綱吉の子を得て大きな権力を持ちます。
将軍綱吉からお伝の方へ贈られた31枚もの掛袱紗は、年始や歳末、五節供など大奥における年中行事の祝い事にあわせた贈り物に掛けられていたもので、31枚を2年がかりで完成するような元禄期の刺繡の最高技術を駆使したまさに芸術品です。

これだけのプレゼント攻めにした綱吉は、お伝の方をよほど寵愛していたのでしょう
その寵愛ぶりは、彼女の意見が政治に影響を与えたりしたとも言われ、綱吉といえば犬公方様で「生類憐れみの令」の発布したことでも知られていますが、そのバックにお伝の方の影響もあったとされています。
保存状態がよく立体的で奥行きのある刺繍の表現が、素晴らしいですね
私にとって大奥といえば、やはりドラマの影響で篤姫(天璋院)です。
彼女の人生を追体験するように1年間ドラマで見ていたので、一番時間を掛けて見ました。
雀好きであった篤姫にちなんで、雀の意匠を刺繍で施したお召し物「搔取 萌黄紋縮緬地雪持竹雀模様」や重箱の雀が可愛らしい

19世紀 「搔取 萌黄紋縮緬地雪持竹雀模様」篤姫(天璋院)所用 19世紀
大奥の御台所の衣装は、豪華絢爛で寝間着搔巻までもが美しく装飾的で、数々の衣装にあらゆる「美」を集めて着飾ったのではないかと思われるほどです。

展示風景より
御台所は、1日に5回着替えたと聞き、そんな「お色直し」だけでも大変だったのではないかと思われます。
隅々まで美しいもので満たそうとした大奥は、江戸文化の華だったのですが、江戸庶民はそれを知ってか知らずか…その財源は何かと考えると複雑な心境になりますね
(とにかく大奥というところは、ものすごくお金が掛かるところなんです)
それにしても、今でもそのまま着れそうな着物全般の保存状態がいいものばかりで素晴らしいです。
篤姫に話は戻って、薩摩藩主・島津家生まれの篤姫の故郷の薩摩切子の雛道具はグラスや器、ビン類が段飾りのように並べられていて、ミニチュアながら繊細で精巧な作りでとてもモダンなものです。
きっと、故郷を感じながら眺めていたのでしょう
同じく幼少期から薩摩焼に親しんでいた篤姫所有の薩摩焼の犬の置物が、可愛いのだけど、実は、夫の家定が犬嫌いというのを知って、もしかしたら夫に見つからないようにそっとこの置物を愛でていたのではないかと想像してしまいます。
(篤姫と家定の仲はどうだったのか?ってよく言われるが、ドラマの影響で私は、仮面夫婦ではなくお互いに愛は、あった派です)
皇族から政略結婚で嫁いだ和宮所用と伝わる逸品も興味深ったです。
天皇の妹である和宮が所有していたものに菊の御紋が装飾されたものがあり、皇女としての矜持を保ちつつも環境の全く違う大奥での生活では人知れない苦労もあったのだろうと思います。

そんな彼女は贅を尽くしたものばかり集めていたのかと思いきや、細々した小物類の「和宮手廻りの小物」を見るとタツノオトシゴから知恵の輪まで素朴なものもあり、微笑ましく感じました。
篤姫に仕え、和宮の世話をした御年寄(老女)の瀧山の女乗り物の籠、自筆の日記や身の回りのものが展示されてました。
ドラマでも印象的だった瀧山は、庶民の娘から三千人ともいわれる大規模な組織の頂点に登り詰めときには、将軍家を動かす存在となった女性で、彼女にとって大奥は、権力の中枢への出世の舞台であり、自己実現の場でした。
瀧山は、独身を通し生涯を大奥に捧げた女性で大奥を語る上で欠かせない人物で、絵島生島事件で有名な御年寄である絵島のゆかりの品も展示されヒロインではない彼女達の人生にも思いを馳せました。
大奥の女性達は、華やかな生活を送る一方、厳格な制度としきたりの閉ざされた世界の中生活をしていました。
こんな閉塞的な中で楽しんでいたのが、貝合わせやかるた、楽器遊びなどで、特に外出の機会がほぼないような大奥での最大の楽しみが「歌舞伎鑑賞」でした。
歌舞伎鑑賞といっても大奥は、男子禁制の大奥なので、女性の役者を呼び演じていたそうでそのときの役者の衣装が見ものでした。

大奥で開催された歌舞伎の衣装 右上「羽織・着付・萌黄繻子地的矢模様」坂東三津江所用 19世紀
女性でありながら歌舞伎の振りを踊れる坂東三津江の弓矢の衣装が斬新でカッコよく、これを着て演じる坂東三津江は、さながら今の宝塚のトップスターのような存在・女性達の憧れの存在だったのかもしれません。

「羽織・着付 萌黄繻子地的矢模様」坂東三津江所用 19世紀
ビロード地に海老の立体的アップリケにも圧倒されます。
このような着物の展示が多くを占め江戸の庶民の想像を絶する豪華な世界があった一方、特殊な世界で生きる女性達の心情を伝える可愛らしい遺品も印象的でした。
また関連する資料や絵図などを見ると大奥は、側室、御台を頂点とした厳格な階級制度で成り立ち最高責任者の老女の元、細分化した仕事を執り行う組織で、現代のCEOを中心に役員や部長職、一般社員と続く大企業に似ています。
大奥の女性達の下級の女中から御年寄へと昇進する道は、現代企業における新入社員から管理職、役員へと昇進するキャリアパスのようで、大奥独自のルールは、現代の企業文化、コンプライアンスにも通じるものがあり、それを女性中心に行われていたことや女性が実力次第でキャリアアップが出来る数少ない場所が大奥だった考えると意外に大奥は、先進的な場所であったのかもしれないです。
しぼリズム菜リズム(まとめ)

「特別展「江戸☆大奥」」東京国立博物館)へ行きました。
大奥は、ドラマや小説や浮世絵、歌舞伎など取り上げられてきましたが、今回は、少しリアルに大奥の世界を知ろうという展覧会です。
個人的にドラマの影響で、篤姫や和宮、お玉の方、お伝の方など大奥のヒロインの衣装や持ち物に興味を持ちました。
着物の展示が多く江戸の庶民の想像を絶する豪華な世界があった一方、特殊な世界で生きる女性達の心情を伝える可愛らしい遺品も印象的でした。
瀧山に代表される大奥の女性の昇進する道は、現代の大企業のキャリアパスのようで、女性が実力次第でキャリアアップが出来る数少ない場所が大奥だった考えると意外に大奥は、先進的な場所であったのかもしれないです。
■特別展「江戸☆大奥」
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- 東京国立博物館
- 2025年7月19日(土)〜 9月21日(日)