ルドン展
「オディロン・ルドン ―光の夢、影の輝き」(パナソニック汐留美術館)に行きました。
今回のルドン(1840~1916年)の約110点の展示のほとんどが岐阜県立美術館のもので、岐阜県美術館は、40年余り前の創立時以来ルドン収集を行い現在では世界的規模のコレクションを持つそうです。
黒の世界

ルドンは、印象派のクロード・モネと同じ年に生まれ同時代に活躍した画家ですが、やはりモネほど知名度はありません。
それは、モネのように一般受けするような作風ではなく、前半の黒を基調とした不気味な目ん玉や蜘蛛男、妖怪みたいな絵のように見る人を選ぶようなモチーフで表現していて、ダークな画面も明るい気分になるものではありません。
でも私は、どこか「キモかわいい」ようなブラックなルドンの絵も楳図かずおの恐怖漫画やつげ義春、テニエルの「不思議の国のアリス」挿絵みたいで決して嫌いではなく、よく登場する「目玉」をモチーフとしたものも「ゲゲゲの鬼太郎」の「目玉おやじ」みたいで親近感があります。
今回気に入ったのが、生首を乗せた天空を見つめた目玉の気球が、荒野を旅しているような「エドガー・ポーにⅠ. 眼は奇妙な気球のように無限に向かう」(18882年)で、一度見たら忘れられない強烈な不気味さがあるのだけど構図も独創的でシュールな美しさがあります。
(モノクロの石版画いいですね)
展覧会では、前半は、木炭画と石版画で描かれた黒の世界でげんなりしそうだったけど、暗部の世界をえぐり出しただけではない暗い中にも抜け感がやユーモラスなおどろおどろしさが感じされ不思議な魅力があります。
黒の世界といっても、「気球」(1883年)のように黒で表現した中に光を感じさせるものもありバリエーションがあるので見ていて飽きないです。
ルドンは、黒色を単なる色彩としてではなく「光」を表現するためのツールとして使い独特な奥行きと神秘性を醸し出しているので単にキワモノでは終わらないのです。
明るいパステルの世界

ルドンの絵は、前半は黒の世界だが、急にパステルを用いたような明るい色調の絵になります。
50代から描いた作品は、明るい色彩の絵で、それも「パステルの画家」と呼ばれるほどの明るい絵を描くのです。
会場の「神秘の対話」の前に立つとそれまでの黒一色の世界から急に視界が開けたように「陰」から「陽」の世界にいざないます。
最初から「神秘の対話」のようなパステル調の絵が展示されていれば、あまり感じなかったかもしれないが冬から春が来たように突如として明るい気分になり、長いトンネルを抜けた開放感があります。

「青い花瓶の花々」「日本風の花瓶」「花瓶の花」「黒い花瓶の花」「黒い花瓶のアネモネ」 「野の花の花瓶」の花瓶の花々も彩豊かで、ルドンの違う側面を見たようになります。
人生の半ばを過ぎて突如として、木炭画と石版画で描かれた黒の世界から明るい油彩、水彩、パステル画の世界へとシフトしたルドンに何か心境に変化があったのか?
ちょっと調べると40代で結婚して長男が生まれるも長男が亡くなった後に次男が誕生します。
長男を失った頃は、ことさら暗い絵を描いていたそうですが、次男の誕生を機にパステルを使った明るい色調の作品を制作するようになり、この時期が人生の幸福期で私生活に希望を見出したルドンの人生と作風がシンクロしているようでした。
これだけ画風が変わる芸術家も珍しいですが、まるで別人が描いたような「黒の時代」と「パステルの時代」の絵だけど現実の非現実の間の世界を浮遊しているようなルドン独自の世界観は、どちらにも共通するものがありともにルドンらしくて魅力があります。
「黒の時代」と「パステルの時代」どちらが好きかというとどちらも好きです。
「黒の時代」があるからパステルの色彩が生きてくるし…
もちろん石版画の黒も大好きなので譲れません。
ルドンは、象徴派の文学者らと交友を持ち幻想的な絵を描いたことから象徴主義に分類されることもあるが、絵を見ているとどこにもラベリングされない独自の道を歩んだように見えます。
同じ時代に生まれ活躍しモネが日常風景を描いたのに対して、印象派が脚光を浴びる中でも幻想的で夢のような世界を描き続けたルドンは決してブレることがなかった画家だったと思いました。
(印象派は、光の表現に決して黒は使わなかったけど、ルドンは黒であえて光の表現もしたというのも面白いです)
しぼり菜リズム

「オディロン・ルドン ―光の夢、影の輝き」(パナソニック汐留美術館)に行きました。
前半の木炭画と石版画で描かれた黒の世界は、暗部の世界をえぐり出しただけではない暗い中にも抜け感がやユーモラスなおどろおどろしさが感じされ不思議な魅力があります。
ルドンは、黒色を単なる色彩としてではなく「光」を表現するためのツールとして使い独特な奥行きと神秘性を醸し出しているので単にキワモノでは終わらないのです。
50代から明るいパステル画を描き、まるで別人が描いたような「黒の時代」と「パステルの時代」の絵だけど現実の非現実の間の世界を浮遊しているようなルドン独自の世界観は、どちらにも共通するものがありともにルドンらしくて魅力があります。
■「オディロン・ルドン ―光の夢、影の輝き」
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- パナソニック汐留美術館
- 2025年4月12日(土)〜 6月22日(日)