どこ見る?
「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」(国立西洋美術館)に行きました。
アメリカのサンディエゴ美術館からの作品と国立西洋美術館の所蔵品をセレクトしてペアや小グループごと並べたものを様々なテーマ、角度から鑑賞し作品の展示壁にあるキャプソンやヒントになるワードに導かれ、比べた作品を「どのように見ると楽しめるかと」いう観点から鑑賞するというスタイルの展示になっています。

「座る女のいる室内」ヤコーブス・フレル 1660年 サンディエゴ美術館
(まるで、フェルメールのような絵ですね)

(こんな風にキャプションがついていると、絵に対する興味が湧くしそれまではどんな人がモデルだったのかと気になります)

右「聖母子」カルロ・クリヴェッリ1468年頃 サンディエゴ美術館 /左「聖母子」アンドレア・デル・サルト 1516年頃 国立西洋美術館
このように「聖母子」という同じ題材の宗教画でも制作地や時代の違いによって表現がどのように変化したのか
(右は、神・キリストの母として威厳があるマリア、左は、我が子・キリストに対して母性が滲み出るマリアという感じに見えます)

左「樫の森の道」ヤーコプ・ファン・ロイスダール 1682年 右「滝のある森の風景」ヤーコプ・ファン・ロイスダール 西洋美術館
同じ主題、同じ画家による2枚でもそれぞれにどのような違いがあるのかなど
美術通でなくとも絵に対する興味が湧いてきます。
目玉作品
今回の目玉は、サンディエゴ美術館のジョルジョーネやサンチェス・コターンなどの世界に冠たる傑作が日本初公開になることです。

「父なる神と天使」ジョット 1328~35頃 サンディエゴ美術館
まずは、貴重なジョットの板絵「父なる神と天使」です。
ルネサンス美術の先駆者でのジョットは、日本での展示機会が少ない作家なのでその名を耳にすることはほとんどないが、「西洋画の父」と呼ばれるほどの偉大な画家なのです。
中世の絵画表現は神であれ人であれ平面的で画一的で無個性なものが主流でしたがジョットは、奥行きや立体感、人の衣服など量感を表現したことや遠近感を出しより写実的に描いたことで、後のレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ等多くの芸術家たちに多大な影響を与えました。
神や宗教が中心であった時代は様々な制約やお約束事の中で描かなくてはならなかったけどジョットは、既成の枠からはみ出して人間を人間らしく神から独立した存在として描いとところが当時としては画期的なことでした。

「男性の肖像」ジョルジョーネ 1506年 サンディエゴ美術館
早逝したジョルジョーネの現存作は極めて少ないため日本国内で展示されることは大変稀なので、ジョットの作品とともに「男性の肖像」も一見の価値があります。
「男性の肖像」は、「サンディエゴのモナ・リザ」とも呼ばれていてカルロ・クリヴェッリ「聖母子」と比べて光と影で巧みに表現した実在感、髪のふさふさした緻密なディテールの描写など写実的な描写になっています。

感想などを書いて貼れるコーナー
何故、「サンディエゴのモナ・リザ」なのかというとレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」とこの「男性の肖像」は同時期に描かれ、柔らかな陰影表現や人物の風貌の特徴や実在感までを表現して「モナ・リザ」に匹敵するほどの傑作だからです。
それだけの絵なのに「モナ・リザ」に比べて知名度が低いのは、「謎めいた(美しき)女性」VS「オジサン」というのがあるからかな?
(絵も小さいし)
と勝手に想像してしまいましたが
でも、平面的でスタンプで押したような人物が中心だったこの時代では、男性版「モナ・リザ」の描写力はやはり時代を何歩も先へ行くものだったのです。

「マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物」フアン・サンチェス・コターン 1602年頃 サンディエゴ美術館
今回のメインビジュアルであるボディコン(静物画のジャンル)の最高傑作「マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物」は、見れば見るほど不思議な絵ですね
まず、日常的に台所にあるような生活感のある野菜や果物を描いているけど非現実的な絵になっています。
窓の出っ張りに置かれたカボチャやメロン、キュウリは影があるのにぶら下がっているマルメロやキャベツには影がないし、光の当たり方、陰の伸び方自体も意図的なのか現実的ではなく謎めいて見えます。
ただ、それぞれの姿かたちは精密に描かれこの時代としては最高峰の域にあったというのが頷けます。
気になった絵
ここからは、気になった絵について

「神の仔羊」フランシスコ・デ・スルバラン 1635~40年頃 サンディエゴ美術館
逆光の中に鮮烈に浮かび上がる哀れな仔羊
おやっ、よく見るとこの子の頭にうっすらと光輪があるではないか
ということは、この仔羊は、イエス・キリスト(「神の子羊(アグヌス・デイ)」)とうことでしょうか
仔羊(キリスト)の脚も縛られていて、きっとキリストが人間の罪に対する生贄の役割を担った姿の象徴として描かれているのだと想像します。
諦念の境地のような目や薄汚れた毛の質感がリアルで心に迫るものがあり、何かとても印象に残る絵ですね。

「悔悛する聖ペテロ」エル・グレコ 1590~95年 サンディエゴ美術館
美術館のあるサンディエゴは、スペインととても関係が深い町でエル・グレコやフランシスコ・デ・スルバラン、ジュゼぺ・デ・リベーラなどスペインゆかりの巨匠の作品がありました。
それにしてもエル・グレコの「悔悛する聖ペテロ」ペテロの顔や首、腕など細部まで写実的に描かれド迫力!

左「婦人の肖像」マリー=ギユミーヌ・ブノワ 1799年頃 サンディエゴ美術館 右「自画像」マリー=ガブリエル・カペ 1783年 国立西洋美術館
「ロココ」VS「新古典」の2枚の女性の絵
フランスの官展に初めて品を認められた同時代を生きた女流画家マリー=ギユミーヌ・ブノワとマリー=ガブリエル・カペの作品です。
「それぞれの勝負服」
とキャプションにあるようにファッション対決は、カペの自信を誇張するように描かれた自画像は、ヴォリューミーな巻き髪やブルーのリボンとドレスが「ロココ」趣味で、一方、ブノワの女性像は、古代風な薄手の白いシュミーズドレスの上にショールをまとった簡潔な「新古典主義」で、並べて見る2枚の絵で西洋美術史における「ロココ」VS「新古典」が比較出来るようになっていて流行の変化が分かります。
ちなみに流行の先取りしているのは、「新古典」の古風なドレスの方で、私は逆だと思っていました。

左「小川のほとり」ウィリアム=アドルフ・ブーグロー 1875年 国立西洋美術館 右「ラ・グランハのマリア」ホアキン・ソローリャ 1907年 サンディエゴ美術館
こちらも女性をモデルにした絵ですが、細部まで丁寧に描写し繊細で写実的な女性像を描いたウィリアム=アドルフ・ブーグローと色彩や光の印象を大胆に表現したホアキン・ソローリャの比較も楽しめます。
(どちらも違う意味で印象的です)

左「花環の中の聖母子」ダニエル・セーヘルス&コルネリス・スフート 1620~25年 国立西洋美術館 右「花環の中の聖家族」ダニエル・セーヘルス&エラスムス・クエリヌス 1625~27年 サンディエゴ美術館
単純にお花が奇麗だと思った作品です。
それぞれの花をダニエル・セーへルスが、聖母子をコルネリス・スフート、聖家族をエラスムス・クエリヌスが描いたもので、花と宗教主題は異なる二人の画家によって描かれるそうです。

「ヴェネツィア、サン・マルコ湾から望む岸壁」 ベルナルド・ベロット 1740年頃 サンディエゴ美術館
ヴェネツィアを描いたこの絵、カナレットの絵かと思いました。
同じ場所を同じような手法で描いているから、カナレットの「サンマルコ広場」に似ています。
(この絵もカナレットのように高い位置からの架空の視点が組み合わさった表現の不思議な絵ですね)
今展のように並べ方などで、西洋画が「どのように見ると面白いか」というヒントを与えてくれのは西洋画の入口に立っている私には大変有難い試みです。
西洋画のエッセンスが散りばめられた展示会場なのにいつもただ漠然と見てしまうことが多いが、今展のように時代や地域、画家ごとの特徴を比較して見ることで新たな「気づき」を与えてくれます。
これからも色々な絵を見る機会を得て、「違った視点で見る」ことも視野に入れながら美術鑑賞に望みたいと思った次第です。
しぼり菜リズム(まとめ)

「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」(国立西洋美術館)に行きました。
アメリカのサンディエゴ美術館からの作品と国立西洋美術館の所蔵品をセレクトしてペアや小グループごと並べたものを様々なテーマ、角度から鑑賞する展覧会で、時代や地域、画家ごとの特徴を比較して新たな「気づき」を与えてくれます。
目玉は、日本初公開になるジョルジョーネやサンチェス・コターン、「西洋画の父」と呼ばれるジョットのなどの世界に冠たる傑作です。
今展のように並べ方などで、西洋画が「どのように見ると面白いか」というヒントを与えてくれのは西洋画の入口に立っている私には大変ありがたい試みです。
■「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」
- 会場 国立西洋美術館
- 会期 2025年3月11日(火)~6月8日(日)