「カナレットとヴェネツィアの輝き」(SOMPO美術館)へ行きました。
今回の主たる展示は、カナレット(ジョヴァンニ・アントニオ・カナル 1697~1768年)のヴェドゥータ(景観画)で、ヴェネツィアを描いたものが多数展示されていました。
ヴェネツィアは、行ったことはありませんが河に囲まれたまるで迷路のような街、水の都・ヴェネツィアと魅力的な観光地でありますが
建物はどうして腐らないのか、そもそも人が住むには条件が悪い潟湖(ラグーナ)の上に街を造ったのかと考えると不思議な場所
そして、何故か映画「ベニスに死す」のコレラを街ぐるみで隠ぺいしているシーンが印象に残っています。
カナレットとヴェネツィア
カナレットが描くヴェネツィアの風景の第一印象は、名所旧跡を順光で撮影した「絵葉書」のようだ感じました。
それもそのはず
都市の景観を精密に描いた絵画「ヴェドゥータ(都市景観画)」は、18世紀当時イギリスの貴族の子弟達の修学旅行である「グランド・ツアー」でヴェネツィアを訪れたときの記念のお土産として購入した「絵葉書」のようなものだったからです。
そのヴェドゥータの巨匠がカナレットです。
左が、カナレットです。
絵葉書のようなものだから「風光明媚なヴェネツィアに行ったんだよ」って少し盛って映えるようにした絵もあり、精密で写真のようなものが多いです。
「人気の観光地、ヴェネツィアは、こんなにいいところ」とマウントを取りたいときは
こちらより
(水分比率多め!やっぱりモネは、水の表現が秀逸)
やっぱり、こちらでしょう↓
このような説明的でヴェネツィアの街並をしっかり描いたものが分かりやすい
カメラがない時代では、やはり精密な絵が好まれたのかもしれません。
(でも、ちょっと情報過多の面もあるような)
カナレットは、ヴェネツィアの名所であるサン・マルコ広場やドゥカーレ宮殿、リアルト橋などまるで写真のように精密に描いていて
尖塔部分の三角形は、定規を使っているのか奇麗な三角になっています。
このように建造物の精密さや人々の影まで描く半面、人物描写は意外に単純でお人形さんみたいです。
よく見ると少し遠いところにいるモブのような人達は、顔などちょこんと絵具を置いただけだったりしますが遠目で見ると省略して描いているように見えないのが不思議で、だまし絵のような感覚に陥ります。
ただ、舟を漕ぐ人など人物一人一人に役割に応じた動きがあってそれが単なる絵葉書とは違う絵を全体的に躍動感するものにしています。
ヴェドゥータは、旅の記念として求められたものなので、晴朗な空や輝く水面、共和国時代の栄華を忍ばせるレガッテ華やかな祭り光景とひたすら明るく、「ベニスに死す」の映画の暗部まで見せるものと違い「明」のヴェネツィアをひたすら描いています。
同じ題材の「昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ」を20年前にも描いていて、並んで展示される1760年の作品と比べるのも面白く、後年の絵は、川の水面に光の反射を表すのに白い小さな粒がたくさん描かれています。
(光の反射を表す白い絵具の粒は、フェルメールも使っていますね)
「サンマルコ広場」は、線遠近法を駆使し細部まで精緻にサンマルコ広場を描いたものだが、どこか不自然に感じたのは
実際には超広角レンズを使っても収まりきらない風景を凝縮して描いている・人間の視野では見えないものを加えて描いているからです。
(この角度から見ると庁舎は、全部見えないのでこれは、パノラマ写真ですね)
「お土産品」としての意味合いも強いヴェドゥータは、実際の景観に加え旅の思い出となるような都市のランドマークを入れこのように「映え」るように加工していたりします。
これは、素描を基にした銅版画ですが、職人気質なのか求められたのか素描も隅々まで手ぬかりがなく仕上げているのが分かります。
実物は展示されないも
現場で描いた素描や素描のメモが書きでカナレットの制作の秘密に迫るものもあります。
素描とそれに基づいて制作された銅版画とは必ずしも現実の風景をそのまま再現していた訳ではなく、異なる複数の視点の習作と組み合わせて広角の風景を作り出したり、実景を研究して操作を加えていたことなどが分かります。
また、素描から写真がない時代、構図や遠近感をつかむためカナレットは、「カメラ・オブ・スキュラ」と呼ばれるカメラの祖先となる原始的な光学機器を使っていた可能性があることも示唆され興味深いです。
カナレットは、ヴェネツィアばかりを描いていたのかとおもいきやローマやイギリスで水辺や田園風景が美しいロンドンでも絵を描いています。
ロンドンで描いたのは、政情不安によりイタリアに観光客が来なくなり商売もあがったりとなり、顧客のいるロンドンまで出稼ぎに行っていたからです。
グランドツアーにしてもカナレットにしても18世紀当時、イギリスからイタリア、イタリアからイギリスへと頻繁に行き来が出来るのかと思うのですが
馬車や徒歩でも冬のアルプス越えは、困難だったと想像します。
この絵の夕方の遊園地を歩く人達の衣装が優雅なのも、道幅が当時の版画より広く描かれているのもクライアントへの忖度のようで、実際の光景とは少し違うようです。
カナレット以外のヴェネツィア
カナレットの時代や没後もヴェネツィアは多くの画家によって描かれ続けてきました。
溜息橋は、運河を挟んでドゥカーレ宮殿の尋問室と牢獄を結ぶ橋で、囚人は投獄される際、
この橋から美しいヴェネツィアを見られるのは最後だと溜息をついたといいます。
ここから処刑された囚人を真夜中にゴンドラに乗せ運んでいる光景を夜空の月や星だけがその様子を見守っているという暗い部分を含む詩的想像力を感じさせるような絵です。
この絵は、どこか不自然な不思議な絵で
ヴェネツィアの運河の奥にロンドンのセント・ポール大聖堂を組み合わせている「カプリッチョ」と呼ばれるコンピューターで合成したような架空の景観画です。
(やはり、モネの絵を見るとホッとします)
モネやシニャックといった19世紀の画家は、ヴェドゥータのような風景画は写真にとって代わられたので写真で表現出来ないヴェネツィアを描くようになります。
顧客が理想とするヴェネツィアの情景を描いていたカナレットに対し、忖度なしに自分が美しいと思うヴェネツィアを描いているので表現も多様で個性に富んでいます。
精密なヴェドゥータにしてもモネやシニャックが描くヴェネツィアは、表現方法は違えどやはり魅力的な都市で、どちらの絵を見ても行ってみたくなります。
しぼり菜リズム(まとめ)
「カナレットとヴェネツィアの輝き」(SOMPO美術館)へ行きました。
都市の景観を精密に描いた絵画「ヴェドゥータ(都市景観画)」の巨匠カナレットは、グランドツアーに訪れる観光客向けにヴェネツィアの絵を多く描きました。
カナレットの描くヴェドゥータは、必ずしも現実の風景をそのまま再現していた訳ではなく異なる複数の視点の習作と組み合わせて広角の風景を作り出したり、実際の景観に加え旅の思い出となるような都市のランドマークを入れ顧客に忖度をして「映え」るように加工していたりします。
カナレットの時代や没後もヴェネツィアは多くの画家によって描かれ続け、顧客が理想とするヴェネツィアの情景を描いていたカナレットに対し、モネやシニャックの19世紀の画家達は自分が美しいと思うヴェネツィアを描いているので表現も多様で個性に富んでいます。
■「カナレットとヴェネツィアの輝き」
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- 会場:SOMPO美術館
- 会期:2024年10月12日(土)~ 12月28日(土)