田名網敬一の大規模個展「田名網敬一 記憶の冒険」(国立新美術館)へ行きました。
田名網敬一
田名網(たなあみ)敬一(1936年~)という名前も作品も最近まで知りませんでした。
新聞に今回の展覧会の記事を目にして、作品の極彩色で賑やか、明るくポップな世界に興味を持ち展覧会に出掛けました。
紹介されていた作品を見て新進気鋭の若手アーティストかと思っていましたが、1936年生まれの現在88歳という年齢でした。
若い頃の作品は、当時としては斬新だったでしょうし、最近の作品は、感性が若々しく年齢を感じさせないものばかりです。
作品が、500点と多くてとにかく多作のアーティストだと思いました。
田名網敬一は、広告会社を経て、イラストレーション、アニメーション、絵画など幅広い分野の創作を手掛け日本版月刊誌「プレイボーイ」初代アートディレクターにも就任
国内外のデザイナーからの支持も厚くファッションブランドとのコラボも多数手掛け近年、国際的な評価が高まり、ニューヨーク近代美術館やシカゴ美術館にも作品が収蔵されています。
田名網敬一と戦争
田名網の描く世界は、一見華やかだけど幼少期に体験した戦争の記憶の断片が散りばめあれているというのを知り明るい色調から以外に思いました。
私は、この金魚の作品「Gold Fish」を新聞の紹介記事で見て実物を見たい思い展覧会に行ったのですが
金魚は、防空壕から見た空襲の記憶で、防空壕の入り口にあった金魚の水槽に照明弾の光が映り金魚の鱗がキラキラと乱反射したのが怪しく見え、この記憶と結びついたものだそうです。
金魚をモチーフにしたものは、ほかにも多く登場します。
赤や青のコントラストの作品が多いのは、終戦後に東京で見た青空と赤茶けた焼野原との強烈な対比がルーツになってその記憶が落とし込まれています。
このような戦争にまつわる陰惨なモチーフを随所に散りばめながらも全体的には楽園のように負の記憶を明るくポップに表現しているようでした。
戦争関連の作品では、『Avant Garde』誌(アメリカ)が主催したベトナム反戦ポスターコンテストに入選した「NO MORE WAR」シリーズもありました。
創作活動
田名網敬一について何の知識も持ち合わせず展覧会に行き、最初の作品から遊び心と奇想天外さ膨大なエネルギーを感じ圧倒されました。
入ってすぐの部屋は、「橋」をテーマにした「百橋図」というインスタレーションと屏風のコラージュ作品です。
プロジェクションマッピングで投影された不思議な生き物が太鼓橋が幾重にも高く重なり合った橋の上を通り過ぎるという作品で、対をなすコラージュ作品の橋を渡った向こう側に描かれているのは「俗」世界なのか「聖」なる世界なのか思いを巡らせます。
(パンフレットに「俗と聖の境界にある橋」とあります)
近くで見ると細密であまりにも情報量が多いので消化不良を起こしそう
改めて、引きのたポジションで眺めると立体の橋と呼応して1つのまとまりに見え独自の世界観を作っていました。
屋外に展示された「金魚の大冒険」や最初の「百橋図」は、2024年の最新作なので88歳の作品なり、そのみずみずしい感性に驚きます。
第2章では、1969年に出版された「虚像未来図鑑」のアーティストブックや日本版月刊『PLAYBOY』、70年代のコラージュ作品が展示
女性誌や音楽雑誌も手掛けているので、もしかしたら過去に目に触れていたものもあったかもしれません。
1981年に結核で長期間入院生活中、薬の副作用による幻覚に悩まされ、そのときのイメージが極彩色でキッチュな作品を生み出します。
入院以降に制作された絵画や療養中の幻覚のイメージを発展させ幼少期の積み木と結びついた「昇天する家」(1987年)のなど立体作品で街を作り、人工の楽園のように見えます。
戦争や病気の負の体験が自身にチャージされるもそれを昇華させて爆発的に解き放っていく彼のエネルギーに感心します。
アメリカ大衆文化の影響が色濃く反映されたサイケな作風のものも
イチゴの鉢植えがカワイイ、ジョンレノン&オノヨーコ
マリリン・モンローやエルヴィス・プレスリー、ビートルズといった時代のアイコンもモチーフになっていて親しみが湧きます。
多くの作品の中で、ピカソ、サルバドール・ダリ、ジョルジョ・デ・キリコ、エドヴァルド・ムンク、葛飾北斎、伊藤若冲、最新作のアンリ・ルソーといった田名網が敬愛するアーティストたちの作品も随所に登場し、それらを見つけるも楽しいです。
最近見たキリコの「オデュッセウスの帰還」(中央上)がシーンが、アニメーションにあり絵コンテ?(写真)もあり彼なりの解釈が面白いです。
スタイルは、変えてもデ・キリコ・「デ・キリコ展」へ行きました
ピカソによる絵を自身のアレンジを加えながら繰り返しいています。
「田名網敬一×赤塚不二夫」では、ほぼ同世代であり敬愛してきた漫画家・赤塚不二夫が描いたキャラクターらをオマージュした作品群を展示
(アッコちゃん、天才バカボンもキッチュでいいなあ)
時代もジャンルも問わない柔軟さも持味です。
「アルチンボルドの迷宮」は、ジュゼッペ・アルチンボルドの作品を引用して作られた立体作品とアトリエの一部を再現したアトリエ小屋のインスタレーションです。
アルチンボルドの果物や野菜、花などを組み合わせた肖像画のようですね。
小屋のアトリエには複数の原画が貼られています。
「記憶の修築」と題された温室の中には、田名網の夢日記やスクラップブックが入っています。
後半、田名網が80代の作品も多く年齢を感じさせないエネルギッシュで生命力溢れるものが多くその創作活力を知りたくなりました。
60年に及ぶ創作活動ゆえ全11章で構成されので作品の数が多くなり、映像も含めると全てをじっくり見るのは難しく、映像作品はかなり端折ってしまいました。
作品そのものエネルギーに圧倒され、一つ一つの作品の情報量の多さに作品酔いしそうになり全てのメッセージを受け取ることは出来なかったが、不思議と元気を貰えたような気がしました。
近年の作品を見れば、「老いて盛ん」という言葉のようにますますエネルギッシュになっているように見え、これからも枯れずに生み出される作品をリアルタイムに見ることが出来るのだと思っていたら
20日の新聞の訃報の記事が目に飛び込んできて
田名網敬一は、8月9日展覧会開催時から2日後に亡くなったということでした。
会場で本人のインタビューとお元気そうな姿が映像が流れていただけにとても残念です。
しぼり菜リズム(まとめ)
田名網敬一の大規模個展「田名網敬一 記憶の冒険」(国立新美術館)へ行きました。
田名網の描く世界は、一見華やかだけど幼少期に体験した戦争の記憶の断片が散りばめあれていたり、病気で体験したことも作品で表現して、負の経験を見事に昇華しています。
田名網が敬愛するピカソやキリコなどのアーティストたちの作品も随所に登場し、アメリカンカルチャーを象徴する時代のアイコンもモチーフになっていて親しみが湧きます。
80代になっても旺盛な表現力は衰えず、これからも新たな作品を生み出していくのだろうと期待していた矢先の訃報は、大変残念です。
■「田名網敬一 記憶の冒険」
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- 会場 国立新美術館
- 会期 2024年8月 7日(水) ~ 2024年11月11日(月)