「徳川美術館 尾張徳川家の至宝」(サントリー美術館)へ行きました。
尾張徳川家の至宝・硬
名古屋の徳川美術館は、将軍家に連なる筆頭格であった尾張徳川家に受け継がれてきた重宝を数多く所蔵しています。
その中で今回、歴代当主や夫人達の遺愛品、刀剣、茶道具、香道具、能装束などを展示、尾張徳川家の歴史や華やかで格調高い大名文化を展示、紹介しその中で印象に残ったものの感想など書きたいと思います。
場入口付近の徳川家の家紋である「葵の紋」とともに展示されているのが尾張家初代の徳川義直の具足「銀溜白糸威具足」(17世紀、江戸時代)です。
義直は正月に武運を祈って行われる具足祝いの儀式のために毎年具足を新調したが、この具足は移動の際にも携帯した好みのものだったというもので、兜から脛当てまで銀と白で統一され日の丸の前立てと肩の紐の赤がアクセントになっていて、いかめしく見えがちな具足がどこかのハイブランドかと思うほど洗練された印象を与えます。
以前、東京国立博物館の国宝展の「三日月形」の刃文に特徴がある「三日月宗近」の「太刀 銘 三条」(平安時代・10~12世紀)で刀剣の芸術的な見方を知り、刀の魅力が少し分かった気がしたが今回、面白かったのが、太刀にまつわるエピソードです。
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絶えず移り変わる無常の世を見つめてきた刀は、数々の伝説をまとっています。
展示の桑名の刀工集団・村正による名刀「刀 銘 村正」(16世紀、室町時代)は、徳川家に不幸をもたらす「妖刀」とされてきました。
しかし、家康が所有していたものが遺産として尾張家に分与され残され守られてきたのは、後世に作られた俗説だからではないかということです。
鎌倉時代に備前国(岡山県)で活躍した刀工「長船長光」が作刀した太刀「津田遠江長光」は、織田信長の愛刀でしたが、明智光秀」が「本能寺の変」の後に安土城から持ち出し本能寺の変に尽くした褒美として、家老の津田遠江重久(つだとおとうみしげひさ)に与えたことから、「津田遠江長光」の名が付きました。
その後、加賀国(石川県)の前田利常、徳川綱吉から尾張藩藩主徳川吉通、6代将軍徳川家宣へ渡り持ち主とともに歴史と物語を刻んだ本太刀といえます。
尾張徳川家の至宝・軟
具足、刀剣、刀装具、陣中道具などと対照的だったのは、大名にとって儀礼や外交の場面において非常に重要で必須の芸道であった茶、能、香に関するコレクションで高い技術による意匠で彩られているものが多くあり徳川の威光を今に伝えています。
興味を持ったのが、剣豪として知られる宮本武蔵が水墨画「蘆用達磨図(ろようだるまず)」(17世紀、江戸時代)を描いていて、文武両道の人だったのかと知りました。
(「二刀流」というと武蔵ですが、武術と芸術の二刀流だったのですね)
剣の修業のひとつとして水墨画を描いたらしいが、肉眼と心眼を研ぎ澄ませ物事の本質を見究めるところが共通するのだろうか
武家女性の華やかな小袖、箏の琴・琵琶などの楽器類、囲碁や将棋などの遊戯具、書や絵画など、尾張徳川家の由緒ある奥道具に慶勝の正室の貞徳院矩姫が着用していた打掛や金無垢、葵紋をあしらった皿、合貝と入れ物の桶は、尾張徳川の姫君達の豊かな生活が忍ばれます。
特に徳川家光の長女・千代姫が尾張家二代光友に嫁いだ際の婚礼調度「初音の調度」(国宝)は、最高峰の蒔絵技術が見られる一連の品で父家光の溺愛ぶりが伺えます。
(自分で調べて)千代姫のエピソードで面白かったのは、政略結婚2歳半で嫁入りしていた、名古屋城には行ったことがないということです。
千代姫こそまさに姫中の「姫」で、その姫様に相応しいのがこの「初音の調度」だと思いました。
源氏物語絵巻
NHKの大河ドラマ『光る君へ』を見ているので、今回、楽しみにしていたのが現存最古の源氏絵である「源氏物語絵巻」(国宝 平安時代・12世紀)です。
会期中場面替えがあり私が行ったときは「柏木(三)」でした。
「源氏物語絵巻」は、「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」(東京国立博物館)でも徳川美術館の「関谷 絵合」を見ていたが、「柏木(三)」は初めて見ます。
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お馴染み大和絵の手法の一つである屋内描写に際して、屋根、天井を省き柱と梁を残して斜め上方から俯瞰するように描く「吹抜屋台」の技法で、見る人の視線を室内の光源氏に集中させるようにしています。
このような大和絵でよく見る本来あり得ない俯瞰的な視点や多視点から見る遠近法が狂ったような絵は、どこかセザンヌ的というかキュビズム的で、西洋のキュビズムよりずっと前からあったのは日本独自に育まれたガラパゴス的な環境が生んだものだと考えてしまいます。
「引目鉤鼻(かぎはな)」の人物は、類型的に見えてしまうがこの光源氏は、構図の影響もあり微妙な心理を表現しているように見えます。
光源氏の腕の中の生まれて五十日の薫の祝ならもっと愛おしさが溢れていてもいいはずだけど、複雑な内情があるので単純には子の誕生も喜べないようで
その複雑な内情とは、尼になった自分の妻の女三の宮が不貞で生んだのが薫(男の子)で、薫の父である柏木も生まれる我が子を見ることなく失意のまま亡くなり、光源氏自体も過去に同じようなことを過ちを犯し自分の運命と我が子ではない不義の子である薫の行く末を考え深い感慨にふけっているのです。
(絵巻物って、ストーリーを知ると見る楽しみが倍増しますね)
そして、この絵の中にこんな生まれたばかりの赤ちゃんがいるのにその母親は、いないの?
って思うかもしれないが
「母屋」を描くことで、そこにいることを暗示させていると考えられ母屋の御簾に添えられた几帳の陰にいるのではないかと「三省堂 辞書ウェブ編集部による ことばの壺 絵巻で見る 平安時代の暮らし 第11回『源氏物語』「柏木(三)」「薫の五十日の祝」を読み解く」にありました。
左の二人は、乳母で母親の姿を描いていないのは、女三の宮が出家して尼僧になったからであろうか
徳川美術館が修復のため赤外線撮影したら所蔵する15場面のうち3場面で本画の構図とは異なる下描きが表れたとのことで、この「柏木(三)」は、本画では薫の両腕はおくるみの中にありますが、下描きには薫が源氏に向かって両腕を伸ばていたことが判明しています。
さらに下絵を見ると薫の顔が、かすかに微笑んでいるように見え本絵でで眠り顔に変更されたのはこの絵のテーマである源氏の「心の葛藤」みたいなものを強調させたかったのか
そんなことを知れば、この絵巻は、奥が深い絵なのだと思いました。
しぼり菜リズム(まとめ)
「徳川美術館 尾張徳川家の至宝」(サントリー美術館)へ行きました。
名古屋の徳川美術館は、将軍家に連なる筆頭格であった尾張徳川家に受け継がれてきた重宝を数多く所蔵その中で今回、歴代当主や夫人達の遺愛品、刀剣、茶道具、香道具、能装束などを展示、尾張徳川家の歴史や華やかで格調高い大名文化を紹介しています。
尾張家初代の徳川義直の具足「銀溜白糸威具足」は、義直のお気に入りで銀と白で統一され日の丸の前立てと肩の紐の赤がアクセントになっていて洗練された印象を与えます。
名刀「刀 銘 村正」の伝説、織田信長、明智光秀、津田遠江重久、前田利常、徳川綱吉から徳川吉通、徳川家宣へ渡った太刀「津田遠江長光」の持ち主とともに歴史と物語を刻みその物語が面白いです。
大名にとって儀礼や外交の場面において非常に重要で必須の芸道であった茶、能、香に関するコレクションが豊富で、「初音の調度」とともに尾張徳川の威光を伝えています。
楽しみにしていた「源氏物語絵巻 柏木(三)」の光源氏の懊悩を強調する描き方に興味を抱きました。
■徳川美術館展 尾張徳川家の至宝
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- 会場:サントリー美術館
- 会期:2024年7月3日(水)~9月1日(日)