デ・キリコ展
「デ・キリコ展」(東京都美術館)に行きました。
イタリアの巨匠、ジョルジュ・デ・キリコ(1888~1978年)の国内での回顧展は、10年ぶりだそうで平日の10時に入館したが、結構、人が多かったです。
形而上絵画
デ・キリコは、自らが表現した「形而上絵画(けいじじょうかいが)」と呼ばれる一連の作品は、私にはどう解釈していいのかよく分からず最初は、戸惑いを感じました。
「形而上絵画」と称した絵は、まるで時間や空間の制約から解き放たれたように概念的です。
従来絵画の古典的な形があるものや物質的なもの(「形而下」)とは反対の形のないもの、形を超えたもの(「形而上」) ものと捉えていいのでしょうか
ピカソの「形」、マティスの「色」という古典的な絵画手法を見直したようにデ・キリコ独自の新たな表現方法を模索したのが「形而上絵画」なのかと1910年代の作品を見て考えました。
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あまり、難しく考えると頭がこんがらがってくるので
この世にないもの、現実にはあり得ないこんな絵↓が、代表的な「形而上絵画」なのです。
「バラ色の塔のあるイタリア広場」は、姿の見えない人を暗示する影や極端な遠近法で、ゆがんだ空間が夢の中の世界のようです。
この世にない世界を描いた絵は、あまり好みではないけれど、この絵のようにどこかノスタルジーや寂寥感のある絵は、惹かれるものがあります。
この絵にそのような余韻を感じるのは、伸びた影が夕暮れどきのもの悲しさを人の影らしきものが人の気配のみを落しているからか
夢なのか現なのか、分からなくなります。
ルネサンス時代に確立された「遠近法」を無視した歪んだ絵は、こんな絵もあっていいのかと思わせる多様な表現で、これが後のシュールレアリストらに影響を与えたのだと思いました。
ただ、ピカソやマティスが、全く遠近法をなくした絵とは違う表現で、それが不思議な魅力になって彼の形而上絵画というもにいつの間にか惹き付けられていました。
キリコは、自画像を多く描いているけれど形而上絵画のキリコの作品には人間はほとんど描かれおらず、代わりに彫刻やマネキンが描かれています。
西洋では、古来から人物の描写に重点が置かれてきましたが、私は、デ・キリコは人間を顔のないマネキン人形という無機質なものに置き換えることでどこか不安感や恐怖みたいなものを表してしるように感じました。
不安や恐怖と書いたけれど、もしかしたらそういう意図はないかもしれないけど無表情なマネキンだからか、それを見ている「私」の(不安だと思う)心が投影されるのは確かです。
だから、見る人によって恐怖を感じたり、中には親しみを感じる人もいるかもしれず、何だかマネキンを見ている自分の存在をおのずと認識するという不思議な感覚に陥ります。
ただ、このマネキンは、後半には徐々に人間化していくという面白い流れがあり侮れないのが、キリコです。
古典回帰と新形而上絵画
キリコは、絵画の伝統を破壊して再構築するという斬新さを持ち合わせていますが、面白いのは、形而上絵画の後に「古典絵画」そのものを描いていることです。
例えば「風景の中で水浴する女たちと赤い布」は、形而上絵画とは対極をいくキリコらしくない絵で、ルネサンス期、バロック期の作品に傾倒し西洋絵画の伝統へ回帰していった時期に描いた絵です。
(女性の目が、少女漫画のように大きい)
この時代のキリコの作品が展示されているスペースは、まるで違う作家の展示会場に迷い込んだかの印象で、このような絵を描いたのは、過去の巨匠の傑作から学んだり、研究したりと自己研鑽のような意味もあったようです。
古典回帰を経て、晩年の10年間は、あらためて形而上絵画に取り組み、それらは「新形而上絵画」と呼ばれます。
若い頃に描いたマネキンや街角、室内に太陽と月といったモチーフを画面上で総合して過去の形而上絵画の二番煎じにならない新境地を開いています。
ピカソも晩年、神話や闘牛、女性のポートレートなどピカソが愛したモチーフを盛り込む総括的な絵を描いていますが、ピカソもキリコもともに過去の作品を再構築して単に焼き直しでないところが巨匠たる所以です。
初期の形而上絵画では、どこか不安感や寂しさが漂っていたが、晩年の「新形而上絵画」では明るいタッチで、「オデュッセウスの帰還」は、部屋の床に出現した海に神話の英雄が乗った小舟が揺られ、壁の絵は、過去に描いた広場の絵が飾られ、窓の外にはギリシャの神殿とポップアートのようで見ているだけで楽しいです。
晩年のこれらの作品は、マネキンが人間味を帯びてきたりユニークなものが多く楽しめるので気軽に見ることが出来ます。
デ・キリコの作品を通して見るとスタイルを変えつつも一貫して、形而上絵画を描き、途中、キリコらしからぬ絵もあったが、振り返るとやはりどれもキリコの絵であったと思いました。
しぼり菜リズム(まとめ)
「デ・キリコ展」(東京都美術館)に行きました。
この世にないもの、現実にはあり得ない絵を描いた初期の「形而上絵画」は、まるで時間や空間の制約から解き放たれたように概念的で、遠近法を無視した風景や表情のないマネキンを描き寂寥感や不安感が漂っています。
途中、形而上絵画から古典的な絵画に回帰したものを描き、晩年は、形而上絵画を再構築した「新形而上絵画」を描き明るくユニークな作風になり親しみやすいです。
デ・キリコの作品を通して見るとスタイルを変えつつも一貫して、形而上絵画を描き、途中、キリコらしからぬ絵もあったが、振り返るとどれもキリコの絵であったと思いました。
■デ・キリコ展
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- 会場:東京都美術館
- 会期:2024年4月27日(土)〜8月29日(木)