新国立美術館の『マティス 自由なフォルム』へ行きました。
今回の展示は、アンリ・マティス(1869~1954年)が病気を克服した後に辿り着いた究極の技法「切り紙絵」とマティスの芸術の集大成「ヴァンスのロザリオ礼拝堂」が展示のメインになりますが、昨年の大規模回顧展『マティス展』(東京都美術館)も見ているので、それを含めた感想になります。
初期の頃は、あんなに絵が上手かったのに?!「色彩の魔術師」マティス
努力の人
今回もマティスの初期の頃の絵があり、マティスの絵を時系列で見ていくと目に飛び込んでくる大胆で鮮やかな色や自由な線、形を獲得し自由に操れるようになった過程が分かります。
リアルな絵から極限まで筆数を減らし手抜きのよう見えるけど、それが究極の形や色彩の表現であるのが分かると単純な形の「切り紙絵」もただの力の抜けたユーモラスな形だと言えなくなります。
一見、即興的で単純に見えるものでも何度もデッサンを描き理想の形を探っていくことをやっていて、実は、緻密に計算されて配置したものだったりします。
色についても「マティス夫人の肖像」(1905年)など「赤と緑」(「黄色と青」のゴッホが有名)の色相環の反対色を白黒ではない色の種類による「光と影」の表現をしていて、効果的な色使いにこだわりました。
これも理論的、科学的に根拠のあるもので、視覚効果を徹底的に追及して緑色の陰の絵になるのです。
今回、マティスの彫刻もあり、一旦、彫刻にしてその形や線を描くことで面だけでは気づけない新しい表現の研究もしていました。
(マティスは、このために彫刻を習っています)
マティスは、対象を的確に捉え写実的に描き腕を磨いくような鍛錬もしていて、そうやって何十年も自分の芸術を探し色彩や形を掴みマティスが、マティスらしくなっていったのです。
(天才だけど努力の人でもあります)
既存の価値を壊す
(色とフオルムでシンプルに見せるのは、実験を重ねて辿り着いた境地)
私は、30年前にマティスに一目惚れしましたが、今考えると色彩的な美しだけではなく花も人もバランスよく描き、マティスのこの全体の調和を考えたバランス感覚にも魅せられていたのだと今回気づきました。
リアルに近いものがよいとされ常識を打ち破ったのが、同年代のピカソとマティス
二人とも色も形も実物に近い方がいいという美術史の常識をマティスは、「色」の解体で、ピカソは「形」の解体をして覆し、アートの役割の一つである既存の価値を揺るがすことをやったのです。
ただ、ピカソは色々なことを絵で試して作り上げた人だけど「色」に関してはマティスには適わなかったような気がします。
切り紙絵
今回の展覧会もメインは、「切り紙絵」で、多くの切り紙絵やそれをモチーフにしたステンドグラスなどが展示されていました。
本展のために修復を経て、初来日の「花と果実」は、5枚のカンヴァスがつながった大作です。
余白を残しながら説明的過ぎず、一番シンプルでそぎ落とす形まで持っていったのも切り紙絵だと思います。
マティスが、絵筆を置いて切り紙絵を始めるようになったのには理由があります。
色彩と同じくらいデッサンを重視していたマティスは、デッサンでよい線を引けたても、色をつけてみると納得のいくものにならないことがあり悩んでいました。
ならばあらかじめ絵の具で着色しておいた紙をハサミで切り取ることで色と線を思うように決めることが出来ると気付き、輪郭をデッサンし色を塗る作業が同時に出来る切り紙絵にシフトしていきます。
もう一つが、身体的理由で、71歳で大病をして車椅子になったマティスが下半身を使わずとも作成可能な切り紙絵は、体力的にも理想的な表現方法だったというのがあります。
このように切り紙絵に舵を切ったマティスは、切り紙絵そのものの他に切り紙絵を「テンプレート」したステンドグラスや印刷物、テキスタイルをデザインしています。
その極限まで単純化した「色」と「形」は、晩年のマティスの集大成となる舞台美術やヴァンス「ロザリオ礼拝堂」の構想という総合芸術へと花開いていきます。
↑これは、トータルコーディネートしたヴァンスのロザリオ礼拝堂の切り絵をモチーフにしたステンドグラスで、聖母子像が、大胆な線で描かれれています。
修道士の祭服もデザインしていて、何よりも今回、マティスの教会といもいえる「ロザリオ礼拝堂」が館内に原寸大で再現されていて、昨年の回顧展では4K映像でしか見れなかっただけに足を運んだかいがありました。
体力の低下にともない出来ることが制限されていく中、「切り紙絵」という新たな表現の可能性に目を向けたマティスに私も見習うことがありそうです。
しぼり菜リズム(まとめ)
新国立美術館の『マティス 自由なフォルム』へ行きました。
今回もマティスの初期の頃の絵があり、マティスの絵を時系列で見ていくと目に飛び込んでくる大胆で鮮やかな色や自由な線、形を獲得し自由に操れるようになった過程が分かります。
今回の展覧会もメインは、「切り紙絵」で、多くの切り紙絵やそれをモチーフにしたステンドグラスなどが展示されていました。
身体的理由と色と線の関係で悩んでいたマティスは、着色した紙をハサミで切り取ることで色と線を思うように決めることが出来ると気付き、そこから切ってから貼る切り紙絵にシフトしていきます。
マティスは、切り紙絵そのものの他に切り紙絵を「テンプレート」したステンドグラスや印刷物、テキスタイルをデザインし、晩年のマティスの集大成となる舞台美術やヴァンス「ロザリオ礼拝堂」の構想という総合芸術へと花開いていきます。
修道士の祭服もデザインしていて、何よりも今回、マティスの教会といもいえる「ロザリオ礼拝堂」が館内に原寸大で再現されていて、昨年の回顧展では4K映像でしか見れなかっただけに足を運んだかいがありました。
■マティス 自由なフォルム
- 会場:新国立美術館
- 会期:2024年2月14日~5月27日