「ゴッホと静物画-伝統から革新へ」(SOMPO美術館)へ行きました。
やはり、ゴッホの展覧会は、人気がありますね。
平日だけど若い人も多く観覧者が多かったです。
ゴッホのひまわり
東郷青児美術館時代も含めガラスケースの向こう側でしか見たことがなかったので、初めてガラス越しでないフィンセント・ファン・ゴッホ(1853~1890年)の「ひまわり」と対面しました。
このゴッホの「ひまわり」に関する気になる記事を新聞で読みました。
記事の内容は
第2次世界大戦中、ナチスドイツによって略奪、接収された美需品の返還を求める動きが欧米を中心に活発になって
日本でも事情を知らずに所有していた美術品が返還対象となる事例も出てきて、「ひまわり」もその一つです。
2022年に「ひまわり」の元所有者の遺族がナチスの圧力のもとで「ひまわり」を売却させられたとして現所有者の損保ジャパンを提訴し返還や損害賠償を求めているというものです。
これに対して、そんぽ側は、公開の競売で購入し「所有権の正当性については疑いの余地がない」として訴えの却下を申し立てているというものです。
そうでしょうね
53億円の大枚をはたいて、正規ルートで購入したのですからね。
ただ、心配なのが世界的にこういった美術品は返還の機運があり、事情がある作品は飾られなくなる可能性があるかもしれないとあったからです。
もしかしたら将来、この「ひまわり」が見れなることがあるかもしれないとリアル「ひまわり」を網膜に焼き付けおこうと展覧会に望みました。
ゴッホのひまわりは、水彩なども含めると数10点あり、今展でも1888年の「ひまわり」の1年前に描かれた「結実期のひまわり」(18887年)があり、そのうち花瓶に入ったひまわりは全部で7点あるとされ
現存する作品は、オランダ、日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、個人蔵と世界各地に点在しています。
(日本にもう1点「ひまわり」がありましたが、第2次世界大戦で焼けてしまいました)
この「ひまわり」はロンドンのナショナル・ギャラリーが所蔵する「ひまわり」の模写とも言われています。
ゴッホと静物画
それにしても、ゴッホは何故、こんなにひまわりを多く描いていたのか
それは、ゴッホにとって絵を学ぶ鍛錬のためのものが「静物画」で、静物画の1つであるひまわりを修業の一環として描いていたのです。
ひまわりの他にも瓶や壺、鳥の巣など伝統的なモチーフを描いています。
ゴッホは850点余りの作品を描いたが、そのうち約180点が静物画で結構な割合で描いています。
オランダ、ベルギー時代に描いていたのは、茶褐色や黒を基調とした写実的な絵ばかりでゴッホの絵だと一見分からないです。
ただ、立体感を出すために筆遣いや色使い遣いなどを考えながら、試行錯誤をしてるように見えます。
形や色、質感などが異なるモチーフを描くことにもた貪欲だったゴッホその一つが↓
元々は、人物画を描きたかったゴッホだけど静物画は、モデルに支払う経費が掛からない上、特に様々な色を自由に組み合わせることが出来る花の絵は、ゴッホにとって色彩を学ぶのに最適でした。
ゴッホに影響を与えた画家達
展覧会では、ゴッホに影響を与えた画家達の静物画も展示されています。
1886年パリに移住したゴッホは、この間に出会った「印象派」の明るい作品からも影響を受け初期の頃と比べると色彩も描き方も大きく変化しました。
光と色彩の表現には、印象派の画家達の影響がはっきりと現れています。
ゴッホと同時代の画家モンティセリのの作品を収集し、表現方法や技法も参考にしたと言われています。
筆跡が残るタッチや絵具を厚塗りする描き方など、パリ滞在中に描かれたゴッホの静物画には色や厚塗りの絵具などモンティセリとの共通点が見出せます。
特にモンティセリの絵の具を幾重にも重ねる「厚塗り」を模倣し、ゴッホの厚塗りの原点はモンティセリにあると言っても過言ではなく、南仏アルルに移住したのも南仏の画家モンティセリに憧憬を持っていたためとも言われています。
また、印象派や新印象派のような細かなタッチではなく簡潔で素早さを感じさせる筆遣いのマネの「白いシャクヤクとその他の花のある静物」を見て、簡潔な技法で同系色を重ねていこうと考えたそうで
当時としては珍しい表現の黄色い背景に黄色い花瓶と全て黄色の日本版「ひまわり」もゴッホに影響を与えた画家の絵からヒントを得て形になったのかと思いました。
19世紀フランスの画家ドラクロワもゴッホの作品に大きな影響を与えた画家のひとりです。
「民衆を導く自由の女神」のイメージが強いドラクロワですが、こんな花の絵も描いていたのですね。
ゴッホは、ドラクロワの表現力豊かな筆使いや色彩高く評価していて、「民衆を導く自由の女神」などドラクロワの特徴的な筆使いや光学的な陰影、ストロボを使ったようなハイライトは強く印象に残ります。
こうして見ていくとゴッホにとって静物画を通して、色やタッチを研究し鍛錬しているうちに強烈な色彩、荒々しいタッチ、厚塗りの絵具などは、ゴッホの代名詞ともいえる表現法を生み出していったが分かります。
ゴッホの10年の画業のうち晩年の2年がゴッホの代名詞といわれる大胆な色彩、渦巻き、厚塗り、独特の筆のタッチで、ここに至るまでの軌跡がこの展覧会で見ることが出来ます。
ゴッホの唯一無二の作風は、彼が独自に生み出したものというより様々な作品から学んで得たものだったと改めて感じました。
ひまわりとアイリス
最後の章では「ひまわり」と亡くなる直前に描いた「アイリス」が並びます。
ゴッホは、「アイリス」を他にも描いていますが、やはり背景の黄色と花の青の対比が効果的なこのアイリスは印象に残ります。
当時はあまり知られていなかった正反対に位置する関係の色同士の「補色」について研究していて
この作品も「青」と「黄色」の補色の組み合わせでお互いの存在を輝かせていて、このように補色を意識した作品が多く描かれています。
日本版「ひまわり」のようにロンドン版「ひまわり」は厚塗りが見られないなど、7点描いた「ひまわり」も全体の色や筆遣いに違いが見られひまわりの連作を通じて色彩や明度、タッチを探求したかのようです。
しぼり菜リズム(まとめ)
「ゴッホと静物画-伝統から革新へ」(SOMPO美術館)へ行きました。
この展覧会では、様々な画家の作品から影響を受け、静物画を通して修業していたゴッホが、自身のスタイルを確立していく様子が分かります。
ゴッホは静物画を通じて絵の鍛錬を行っており、「ひまわり」はその中でも修業の一環とされ水彩を含めて数十点描いています。
ひまわり以外にも瓶や壺、鳥の巣など伝統的なモチーフも描き静物画を通じて色やタッチを研究しています。
ゴッホに影響を与えた印象派の画家達やモンティセリ、ドラクロワなどの静物画があり、それぞれの作品からゴッホが学びながら独自の表現法を確立したのが分かります。
「ひまわり」と並んだ色彩や補色の意識が強調された「アイリス」などゴッホの強烈な色彩や荒々しいタッチ、厚塗りの絵具は、彼が学び取った要素を組み合わせて生まれ自らの絵画表現を築いていったかが展覧会を通して感じられました。
■「ゴッホと静物画-伝統から革新へ」
- 会場:SOMPO美術館
- 会期:2023年10月17日(火)~ 2024年1月21日(日)