「ガウディとサグラダ・ファミリア展」(東京国立近代美術館)に行きました。
スペインバルセロナの人気の観光地でもあり世界遺産にも登録された聖堂「サグラダ・ファミリア」は、日本人にとても人気がある建造物なので、平日にもかかわらず人手の多い展覧会でした。
私は、今まで行ったこともなくこれからも実際に見ることもないであろうサグラダ・ファミリア
未だ未完のあの不思議な形の造形物に興味があったのでせめて展覧会でサグラダ・ファミリアはどんなものか知りたくて足を運びました。
ガウディとサグラダファミリア
「サグラダ・ファミリア」に魅了されるのは、140年経っても建設途中ということと独特の建築様式です。
サグラダ・ファミリアは、アントニ・カウディ(1852~1926)の代表作であり、ガウディの独創的な建築様式と、聖書をモチーフとした装飾が特徴です。
カウディが当初から、数百年かけて作られるというイメージを持っていて存命中に完成不可能であることを知りつつもその聖堂の建設に全生涯を掛けました。
コンピューターもITも3D印刷もない時代に不定形な曲線や複雑な形状を持つ聖堂がどのように作られたかが一番知りたいところであり、それを読み解くのが展覧会のテーマでもあるガウディの「自然」「歴史」「幾何学」という3つキーワードです。
ガウディが歴史や自然に学び、幾何学を駆使してたどり着いたのがサグラダ・ファミリアという独特の建築様式なのです。
自然
ガウディの建築デザインには、自然界を模倣した要素が多く取り入れられています。
ガウディの建築の特徴であるまるで生き物のような形状や流れるような曲線は、カタルーニャの樹木の枝や花、骨格などからインスピレーションを受け生み出されたものです。
実際、ガウディは「自然」をよく観察していて、会場にはサボテンやスイレン、ヤシの木をスケッチしたものが展示され自然の形状や構造から学び、自然の美しさを建築の中に盛り込もうとしていたのが分かります。
ガウディは自然界の法則や力学にも目を付け、糸や重りを使った吊り下げ模型などを用いて建築物の最も安定的なバランスを検証しそれを基に独特な形状や構造を実現させました。
通常、建築物の塔は上方から下方へと圧力がかかる形で建設されますが、ガウディは自然界の力学的な原理に近づけようと逆に聖堂の塔を下から上へと建設しました。
そのため塔は外側から見ると重力に逆らって上に向かっているかのように見えます。
サグラダフ・ァミリアは、このような自然法則を応用して構造の安定性を確保しながらも、建築物が軽やかで優美な印象を与えるよう意図したのです。
歴史
ガウディは「何事も過去になされたことに基づくべきだ」と「歴史」を重視しイスラムの文化が通過したスペイン歴史、地元カタルーニャの文化、中世ゴシックを学びリバイバル建築に取り組みました。
ガウディが熱心に研究したのが、イスラム建築のアルハンブラ宮殿で、細密な装飾やモザイクからガウディ建築の大きな特徴である「破砕タイル」手法や独特の装飾技法を作り出しました。
破砕タイルは、陶器やセラミックタイルなどの断片を不規則な形状に割り、それを建築物の表面にモザイクのように組み合わせたものです。
ガウディ特有の複雑な曲面を被覆するのにも最適で、破砕タイルを用いることで建築物の表面に独特のテクスチャーと色彩を与え、光の反射や影の効果を生み出しました。
幾何学
19世紀初めに生まれた「幾何学」を初めて建築に導入したのはガウディで、独自の建築様式を築き上げる基盤となりました。
幾何学は、形状、サイズ、相対的な位置、角度や距離などを研究する数学の分野で、形状やパターンの美しさ、調和、対称性など自然界や建築、芸術など様々な領域で広く応用されています。
ガウディは、常に自然を観察していました。
例えば、洞窟のように自然の中の空間は、柱とか梁で支えられていないけど崩れないのは放物線によるもの
というふうに学生時代から建築に曲線を取り込む研究をしていて、放物曲線やパラボロイドなどの幾何学を駆使して曲線や複雑な形状をサグラダ・ファミリアを建設するために取り入れました。
この放物線が持つ合理性を応用することにより曲線的な形状や複雑な構造を実現可能にし、伝統的な直線的なデザインにはない独特な美しさを生み出すことが出来ました。
そして、自然界に多く見られる双曲放物線面が、最も強固な構造形態であるとし斜めの線や曲線を含む柱でも約173メートルの高さを支える耐性を備えることが出来ています。
ただこうした直線的でないものを図面に描いたり建設する事は困難だったので、ガウディは、膨大な数の模型を作り模型の修正を繰り返しながら聖堂の形と構造を探りました。
サグラダ・ファミリアは、美しさに赴くまま自由に造形したと思っていましたが、幾何学を駆使しつつ建築構造の力学を研究し様々な建築技術を用いたものであったこと、ガウディの建築構造について深い知識をもって建てられたものだと分かりました。
ガウディ建築は、単に思いつきで設計していた訳ではないのですね。
ガウディの人生
1980年代サントリー・ローヤルのCM(アントニオ・ガウディ編)で、アントニオ・ガウディとサグラダ・ファミリアに興味を持ちました。
ガウディは、スペイン、カタルーニャ地方に生まれサグラダ・ファミリア聖堂をはじめとして、グエル公園、カサ・ミラなど手掛けた7点が世界遺産に登録されています。
ということで、ガウディは天才的な建築家には違いありません。
でも、展覧会に行って、天才建築家とは別のガウディの知られざる人生に触れることが出来ました。
「31歳で初代設計者から完成した地下聖堂のみ引き継ぎ73歳で亡くなるまで持てる全てを聖堂に捧げた」とあり、ガウディは、実はサグラダ・ファミリアを最初から手掛けたのではなく2代目の建築リーダーだったことを知りました。
晩年は、家族、パトロン、親友と最愛の人達を失いサグラダ・ファミリアに住み込みながら聖堂の仕事に没頭していましたが、時代背景もあり思うように建設の資金が集まらず経済的にも苦しかったようです。
この頃、自ら家々を訪問し資金集めに奔走
身なりも粗末だったそうで、建築家として成功を収めましたが必ずしも順風満帆な人生という訳ではなかったようです。
極めつけは、礼拝に行く途中、路面電車に跳ねられ粗末な身なり故、何台ものタクシーに乗せてもらえず手遅れになり亡くなってしまうという何とも悲しい最期を遂げます。
ガウディの死はスペインの芸術界に大きな悲しみをもたらしましたが、このときの粗末な身なりの老人が誰もガウディだとは知る由もなかったのです。
ガウディが未来に託したサグラダ・ファミリアは、300年は掛かるのではとも言われていたが80年代からコンクリートが使われるようになったこと、コンピュータなどの先端技術によって設計と施工の連動がよりスムーズになり2026年に完成予定となりました。
私が生きているうちには完成しないだろうと思っていましたがあと少しです。
非業の死を遂げたガウディもきっと完成を楽しみにしていることでしょう。
しぼり菜リズム(まとめ)
「ガウディとサグラダ・ファミリア展」(東京国立近代美術館)に行きました。
アントニ・ガウディの代表作である「サグラダ・ファミリア」はスペインバルセロナの人気の観光地であり世界遺産にも登録されている聖堂で、平日でありながら多くの人で賑わっていました。
サグラダ・ファミリアの魅力は、建設が未完のまま140年経過していることと、独特の建築様式にあります。
ガウディは、建設が数百年掛かるというイメージを持ちながらも生涯をかけてその建設に取り組みました。
彼はコンピューターやIT、3D印刷などの技術が存在しない時代に、不定形な曲線や複雑な形状を持つ聖堂をどのように作ったのか、その謎を解き明かす鍵は「自然」「歴史」「幾何学」という3つのキーワードにあります。
ガウディは自然界を観察し、植物の枝や花、骨格などからインスピレーションを得て、生き物のような形状や流れるような曲線を生み出しました。
彼は自然の形状や構造から学び、建築の中に自然の美しさを取り入れたり、糸や重りを使った吊り下げ模型などを通じて安定性とバランスを検証し独特な形状や構造を実現しました。
ガウディは建築において「歴史」を重視し、イスラムの文化やスペイン歴史、地元カタルーニャの文化、中世ゴシックなどを学びリバイバル建築に取り入れました。
また、彼の建築は幾何学的な原理に基づいており、曲線や複雑な形状を実現するために放物曲線などを利用するという単なる思いつきで設計している訳ではありません。
展覧会では、ガウディの建築作品や設計プロセスを紹介するとともに、彼の人生にも触れることが出来ました。
■「ガウディとサグラダ・ファミリア展」
- 会場:東京国立近代美術館
- 会期:2023年6月13日~9月10日