西洋美術館のリヒターを見て
国立西洋美術館の『オープン記念自然と人のダイアローグフリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで』に行ったときゲルハルト・リヒターの代名詞的な作品をクロード・モネの絵と並べて展示していました。
モネ、ルノワール、ゴッホ。「実業家」の気骨があったから、今、【西洋美術】を堪能出来る
リヒターの代表シリーズ「フォト・ペインティング」(ドイツフォルクヴァング美術館所蔵)の1作の「雲」とモネの「舟遊び」(西洋美術館所蔵)を比べてそれぞれの光の捉え方の違いが印象的でした。
右のリヒター作品ですが
「写真?」
って思うほどですが空の写真をぼかしたように描いたれっきとした絵で、フォト・ペインティングという手法の写真をもとにして、それとそっくりの絵を描いたものです。
こういう絵を描くリヒターには他にどんな作品があるのか気になって見に行ったのが、『ゲルハルト・リヒター展』(国立近代美術館)です。
ゲルハルト・リヒター
ゲルハルト・リヒターは、1932年にドイツ・ドレスデンで生まれ、1961年東西ドイツ分断の直前に西ドイツに移住し活動を続けている現代アーティストです。
2022年には90歳を迎え、現代アートに関心がある人なら誰もがその名を知る美術史に名を残すであろう巨匠です。
有名だったのですね。
名前だけは聞いたことはありますが、今まで知りませんでした。
また、作品が高額で取り引きされることでも有名で、サザビーズのオークションにエリック・クラプトンが所有していた絵画が約26億9000万円で落札され話題になりました。
(2020年には「Abstraktes Bild (649-2)」を日本のポーラ美術館が約30億円で落札。)
絵画、写真、ガラス、鏡など技法と扱う素材を次々と変えながら表現すること60年。
リヒターは、写真や映像の存在感が高まってきた時代に、絵画に何ができるのか問い直してきました。
今回の展覧会も絵画だけではなく、写真、ガラス、鏡などで多種多様に表現したリヒターの約120点の作品を展示していました。
アウシュビッツ=ビルケナウ
今回の注目の作品は、「ビルケナウ」というホロコーストを題材に描いた4枚の絵画とこの絵の原寸大の複製の写真です。
それと左にあるグレーの鏡も作品で、そこに映り込んだ作品ががより強調されます。
2.6m×2mの抽象画のどこがホロコーストなのか全く分かりませんでしたが、この絵のもととなった共に展示してあった小さな4点の白黒写真を見てそうだったのかと理解しました。
グロテスクだからか撮影禁止の白黒写真は、アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所での隠し撮り写真で、慌ててシャッターを押したのか、ピンぼけした写真にはたくさん死体を火にかけている様子が写っています。
この写真を描き写したうえで、幾重にも絵の具で塗り込めていったいったのが「ビルケナウ」です。
リヒターが82歳のときに描いたものですが、ホロコーストは今まで、何度か取り組んでは断念したテーマだったそうです。
それだけにこの「ビルケナウ」の完成は、心に抱えていた長年の責務を果たした作品だったようです。
(ホロコーストを描かずに死ねないと思っていたのでしょう。)
彼にとって思い入れのある作品で、リヒターの死後「ビルケナウ」を散逸させない・市場に出さないために、リヒターは自らの名を冠した財団を設立しています。
この絵は、ビルケナウ強制収容所の隠し撮り写真を一度、描き写したうえで、幾重にも絵の具で塗り込めて左官屋が使うような大きなへらで絵具をキャンパス上に引き延ばし絵具を削っていきます。
その上からまた描き、削り描いて削るという工程で出来ています。
キャンバス上の混沌とした世界の中に、決して封じ込めてはいけない悲劇の過去があったのです。
ドイツの黒歴史を刻みこんだ絵は、写実的な絵より想像力で補てんしながらも生々しさを感じました。
多種多様な表現方法は、リヒターの実験場?
リヒターは「画家」としてのイメージでしたが、絵画だけではなく写真、デジタルプリント、ガラス、鏡などの作品なども制作しています。
デジタルプリントされた横に長~い「ストリップ 」
イッタラのオリゴのように美しい縞模様です。
写真を描き写しピンぼけしたようにする「フォト・ペインティング」これ、よく見ると分かりましが、描いているのですよ。
「ヴァルトハウス」も描いたもので、「自然は、非人間的」だというリヒターの考え方が印象的です。
色彩あふれる「アブストラクト・ペインティング」と呼ばれる抽象画
グレイの色彩で画面を覆う「グレイ・ペインティング」シリーズ。
リヒターは「グレイ」の色彩について「何もないことを示すのに最適である」と語っています。
でも、グレイは作品によって色の表現や筆使いが微妙に異なり、逆に豊かなバリエーションを生み出しています。
昨年、描いたばかりのドローイングシリーズ
ドローイングとは絵画を描くための下絵、あるいは構想で、日付が1日違いの作品があり、連日デッサンして現在進行形で作品を作り続けています。
このようにリヒターは、絵筆だけではなく色々な手段、方法で表現し多種多様の作品を生み出してきました。
リヒターがこれまでのアーティストとしての「試みの実験場」が今回の展覧会場という雰囲気でした。
核となる部位分にブレがないのか、表現方法は違えどどれもリヒターらしさがあるように感じました。
リヒターが、どんな「テーマ」で作品を作ってきたのか、リヒターについてもう少し学んでみようかと思いました。
しぼり菜リズム(まとめ)
写真なのか絵なのか、不思議な絵を見て興味を持ったドイツの作家ゲルハルト・リヒター
『ゲルハルト・リヒター展』(国立近代美術館)で、90歳、現役で活躍するオークションで高額な値が付くほど人気のリヒターの作品に触れてきました。
リヒターは、絵画だけではなく写真をもとに、それとそっくりの絵を描いたフォト・ペインティングや写真、デジタルプリント、ガラス、鏡、色彩豊かな「アブストラクト・ペインティング」やグレーだけの抽象画など様様な方法で表現しています。
今回、目を惹いたのが「ビルケナウ」というホロコーストを題材に描いた4枚の絵画と複製の写真です。
実際のホロコーストでの撮られた写真を描きその上に幾重にも絵の具で塗り込めていったいったもので、その作品を見ただけでは何を描いた分かりません。
しかし、想像力で補てんしながらも抽象的な絵の中に消してはならぬドイツの黒歴史のリアリティがありました。
■ゲルハルト・リヒター展
- 国立近代美術館
- 2022年6月7日~10月2日