『オープン記念自然と人のダイアローグフリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで』(国立西洋美術館)と『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』を見て、先人達の西洋美術への気概というものを感じました。
松方コレクション
国立博物館や東京都美術館に行くとき目にするのが、改装中だった国立西洋美術館。
その国立西洋美術館が、1年半ぶりにリニューアルオープンしました。
国立西洋美術館は、実業家松方幸次郎(1866~1950)の個人コレクションをもとに設立された美術館です。
第一次大戦により造船で莫大な利益を上げた松方は購入した作品を持ち帰り、美術館を建てて公開する準備をしていました。
モネやルノワール、ドガ、セザンヌ、ゴーギャン、ミレイ、ゴッホ、ロダン、海外に流出した浮世絵…
1916年から約10年間、足繫くヨーロッパの画廊を訪れ、絵画、彫刻から家具やタペストリーまで、膨大な数(総数は1万点に及ぶと言われる)の美術品を買い集めました。
松方が美術にこれほどの情熱を傾けたのは、自らの趣味のためではなく自分の手で日本に美術館をつくり若い画家たちに本物の西洋美術を見せてやろうという明治人らしい気概を持っていて、そのために作品の収集にあたっていたのです。
しかし、関東大震災や経済恐慌で事業が経営危機に陥り彼の夢は頓挫しました。
日本に運ばれていた1,000点以上の美術品は展覧会で売り立てられ、散逸。
ロンドンの倉庫に預けていた約900点も火災で焼失。
パリで保管されていた約400点は、第二次世界大戦末期、フランス政府に敵国財産として接収されフランスの国有財産となります。
しかし、終戦後、フランス政府は日仏友好のためにその大部分を「松方コレクション」として日本に寄贈返還します。
このコレクションを受け入れて展示するための美術館として1959年に出来たのが、国立西洋美術館です。
そもそもの「日本に最初の西洋美術館を作る」という目的で美術品を蒐集した松方ですが、彼亡き後れが実現したのです。
国立西洋美術館は、松方幸次郎という一人の人物がいなかったならなかった訳で、これだけ質の高い作品に触れることが出来るのは彼の存在があったからです。
松方コレクション:モネ
モネと親交があった松方。
彼のコレクションにはモネの作品が多く、直接本人から譲り受けているため信頼度の高いコレクションとして価値があります。
これも正真正銘のモネの作品ですが、モネってこんな前衛的な絵を描いた?と思ってしまったのが『睡蓮、柳の反映』です。
モネ本人から直接に購入しフランスで保管していたのがこの作品で、2016年に発見されたものです。
実は、前衛的に見えるこの絵にはこんな事情がありました。
絵は、第二次世界大戦中に行方不明になり60年間表舞台から消え、2016年にルーヴル美術館で発見されたときは作品の上半分は欠損し、残っていた下半分にも亀裂や剥落など大きなダメージがありました。
西洋美術館に寄贈されることになり、松方コレクション展の開催に合わせ現存部分の修復を経て公開されたのです。
なるほど、下半分は水面に柳の木が映り込み、右側に睡蓮が描かれているのが分かりモネの代名詞の「睡蓮」だと上半分も想像出来るようです。
フォルクヴァング美術館とオストハウス
今回の展覧会は、ドイツのフォルクヴァング美術館との協働で多くの作品が出典されています。
フォルクヴァング美術館は、松方幸次郎と同様、私利を追求することなく「工業地帯に美の殿堂を」という理念のもとハーゲンの美術コレクター・カール・エルンスト・オストハウスのコレクションを基に設立した美術館です。
ゴッホ、ルートヴィヒ、フリードリヒミロ、マネ、 ルノワール、 モネ、 ピカソ、 マティス、 ゴーギャン…
世界の名画を有する「美の殿堂」がエッセンに存在するのはオストハウスの功績があったからです。
この絵は、ゴッホの死の12年後にオストハウスが購入し、フォルクヴァング美術館の開館を飾った記念碑的な作品です。
こちらは、松方コレクションのゴッホ↓
財力と目利き、篤志家の志や気骨…。
否定はしないけれど、世の中に何億円という額を宇宙旅行に使う金持ちもいるけれど
私達が、こうして気軽に名画に触れあうことが出来るのは、実業家が私欲のためでなく社会貢献で私財を投じて美術を支え貴重なインフラを整備してもらったことで可能になったのです。
美術館を支えた実業家
『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』に行ってこちらも美術文化を支えている人達の熱き思いを感じました。
スコットランド国立美術館は、エディンバラ城と牧歌的な風景に溶け込んだ神殿のような建物と王宮に迷い込んだ内観が素敵なスコットランドのエディンバラにある美術館です。
スコットランド国立美術館は1859年の開館当初、絵画購入の予算を与えられませんでした。
しかし、ラファエロ、エル・グレコ、ベラスケス、レンブラント、ブーシェ、スーラ、ルノワール…現在あるの数々の巨匠達のコレクションは世界最高峰のものばかりです。
これだけの質の高い作品を所有しているのは、地元の名士達の寄贈や寄託、また寄付金などで作品を購入してきた歴史があるからです。
そして、スコットランド国立美術館が素晴らしいのが入館料が無料だということです。
イギリスは多くの美術館や博物館の入館料が無料で国が、芸術文化を大切に考えているからだと思います。
展覧会の最後は、アメリカの画家 フレデリック・エドウィン・チャーチの『アメリカ側からのナイアガラの滝』という縦横ともに2m以上の大作で、轟音が聞こえてくるような瀑布の迫力に圧倒されそうな絵です。
ターナー、レノルズなど今まであったイングランドやスコットランドの画家達とは趣が異なるアメリカ人画家のこの絵がラストを飾ったのは、この美術館ならではの理由がありました。
それは、スコットランドの貧しい家庭に生まれ、アメリカに渡って成功し財を成した実業家が、故郷のためにスコットランド国立美術館へ寄贈したというスコットランド国立美術館のコレクションの形成の歴史を象徴する作品だったからです。
しぼり菜リズム(まとめ)
国立西洋美術館で開催している『オープン記念自然と人のダイアローグフリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで』は、ドイツのフォルクヴァング美術館との協働です。
国立西洋美術館は、モネ、ルノワール、ドガ、セザンヌ、ゴーギャン、ミレイ、ゴッホなど松方コレクションをもとに設立された美術館です。
実業家松方幸次郎は、自らの趣味のためではなく、「多くの人に西洋の絵を見てもらおう」という美術館建設のため明治人らしい気概をもって作品を収集。
しかし、戦争や災害、経営の悪化でそのコレクションは松方の手を離れ散逸しましたが、戦後、寄贈、返還を経て「松方コレクション」として収蔵したのが国立西洋美術館です。
世界の名画を多く所蔵するフォルクヴァング美術館も美術コレクター・カール・エルンスト・オストハウスのコレクションを基に設立した美術館です。
また、『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』のスコットランド国立美術館が世界最高峰の巨匠達のコレクションを有するのは、、地元の名士達の寄贈や寄託、また寄付金などで作品を購入してきた歴史があるからです。
今回の展覧会では、総じて財力と目利き、篤志家の志や気骨があったから。
私達が、こうして気軽に名画に触れあうことが出来るのは、松方幸次郎やオストハウスなど実業家が私欲のためでなく社会貢献で、私財を投じて美術を支え貴重なインフラを整備してもらったことで可能になったのです。
■『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』
- 東京都美術館
- 2022年4月22日(金)~7月3日(日)
■『オープン記念自然と人のダイアローグフリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで』
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