画家の鏑木(かぶらぎ)清方(1878~1972年)、ずっと鈴木清方だと思っていたほどよく知らない作家でした。
でも、面白そうな展覧会がないかなあと調べていたら、1975年以来所在不明であった清方の代表作である「築地明石町」が発見されそれと合わせた三部作「新富町」「浜町河岸」の3点が44年ぶり展示されるとあって興味本位で行ったのが『没後50年 鏑木清方展』(東京国立近代美術館)です。
展覧会は、平日の午前中に行ったにも関わらず結構、人が多くびっくりしました。
(どちらかというと年配の方が、多かったです。)
千鳥ヶ淵公園の桜も見頃で、天気もよかったので、そちらからも人が流れて来たのかもしれません。
「築地明石町」三部作
鏑木清方は、「西の(上村)松園、東の(鏑木)清方」といわれる「美人画」の大家です。
一時期、日本画に凝って山種美術館に通ったことがあり、そこで上村松園の美人画はよく見ていました。
(日本画って、実物を見てその魅力が分かるので美術館に足を運んでいました。)
清方の美人画の代表作が、「築地明石町」です。
(見返り美人のような美人画、どこかで見たような記念切手だったか。)
この幻の作品は、44年間所在不明でしたが、近代美術館が捜索を続け、2019年に個人所蔵者から購入し収蔵に至った経緯があります。
また同時に、同じく所在不明だった「新富町」「浜町河岸」も購入し3作品の購入額が5億4000万円だったそうです。
黒い羽織を着た女性が朝霧に包まれる旧外国人居留地の明石町(現・東京都中央区明石町)に佇む姿を描いています。
この外国人居留地で、外国人の女の子が車輪回しで、遊んでいる「東京築地川」という楽しい絵もありました。
最初に博多人形のような透明感の肌、思ったよりふわっとした柔らかそうな黒髪、引き締め効果抜群の黒の羽織、アンニュイな表情に目が行きました。
オーラと色気のある人物が素敵でしたが、実物を見て背景の朝顔などの植物も描かれていて、さらに奥の方もスケッチのように何か描かれています。
(後で調べたら奥に描かれていたのは、入り江に停泊した帆船でした。)
清方は、人物と植物をよく描いていますが、どれも人物と植物のそれぞれを引き立て調和しています。
「新富町」は、新富座の絵看板、「浜町河岸」は、新大橋と対岸の深川の火の見櫓と人物だけではなく、東京界隈の風景が描かれています。
人物を緻密に描き込み逆に背景はサラッとスケッチのように描いて、そのバランスが絶妙です。
着物の柄も細かく緻密です。
髪の毛の筆使いにも魂が宿っていて、生え際や後れ毛、髪の毛1本1本描き分けています。
これも、実物を見ないと分かりません。
書道教室を開いていた祖母が、水彩画や墨絵も描いていてその繊細な筆使いは、近くで見ないと分かりにくいと思っていました。
日本画は、写真や画像では伝わらない筆の1本1本の線や掠れ、陰影など微妙な筆使いが見所で、やはり現物を見ないとその絵の神髄は伝わりません。
作品「三遊亭圓朝像」は、気が付きませんでしたが後から解説を読んだところ着物の柄の線が細かくて丁寧だとありました。
ネット画像で調べて、拡大して見ると目が痛くなるほど1本1本の江戸小紋の細い線が丁寧に描かれ、精緻極まりない作業は、職人芸を通り越して「神業」かと思いました。
これを実物で、確かめるためにも「予習」をしてから行けばよかったと思いました。
四季の花や日常生活も
期待した以上に清方の絵がよかったのは、美人画でも人物だけではなく、女性の描かれた絵の背景に四季折々の花だったり明治の古きよき下町の風景や日常生活も描かれ、人物と背景の両方を楽しむことが出来たからです。
1粒で、2度美味しいというのでしょうか。
風景や市井の人々の日常生活や世情を織り込むことにより、時代背景や時代の匂いを感じることが出来ます。
清方自身も単に美人画家というよりは、女性を通してそんなメッセージ性を感じて欲しいようでした。
展覧会で流れていた清方のインタビュー音声で印象的に残る言葉がありました。
「(人物、庶民の日常生活、花や季節の風物詩など)好きなものだから描く。嫌いなものは、描かない。」
「戦いは、好きではないから描かない。逆に戦時中、静かな美しいものを描くことに没頭した。」
「明治の時代はよかった。四季豊かな日本の情緒に鍋を磨き、庭を丁寧に掃き清めるといった清潔さや豊かさがあった。」
清方の絵を見ているとそんな清方の想いが伝わってきます。
大注目株
面白かったのが、パンフレットに作品リストがあり、そのリストの一部を自身が、「☆」で自己評価していて(「☆」「☆☆」「☆☆☆」の3ランク)、「☆☆☆」の作品は、自身も気に入っているように気合が入っているように見えました。
清方の絵は、青とも紫ともいえる絶妙な色合いの「清方ブルー」(「朝涼」の少女の着物の色が有名です。)など独自の色も美しく、日本人の感性に合っていて、清方のファンが多いのも納得しました。
鏑木清方。
出会ってよかった!
もっと注目を浴びてもいい、これから知名度が上がりそうな作家です。
しぼり菜リズム(まとめ)
『没後50年 鏑木清方展』(国立近代美術館)・鏑木清方(1878~1972年)は、「美人画」の大家です。
清方の美人画の代表作が、「築地明石町」で、44年ぶりに発見され「新富町」「浜町河岸」の3作品がお目見えしました。
透明感の肌、生え際や後れ毛、1本1本描き分けられた黒髪、アンニュイな表情の美人画の女性も素敵ですが、背景の四季折々の植物や、東京界隈の風景も実物を見て楽しめました。
着物の柄や小道具も細かく緻密で芸達者。
日本画は、写真や画像では伝わらない筆の1本1本の線や掠れ、陰影など微妙な筆使いが見所で、やはり現物を見ないとその絵の神髄は伝わりません。
明治の古きよき下町の風景や日常生活といった市井の人々に世情を絵に織り込むことにより、時代背景や時代の匂いを感じることが出来ます。
清方自身も、描く女性を通してそんなメッセージ性を感じて欲しいようでした。
実際に絵を見て、独自の色も美しくファンが多いのに納得しました。
鏑木清方・これから、知名度が上がりそうな作家です。
■『没後50年 鏑木清方展』
- 国立近代美術館
- 2022年3月18日(金)~5月8日(日)