民藝の100年展
「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」(国立近代美術館)を見ました。
「民藝」って民芸品のこと?
知っているようで、実は、あまりよく知らない民藝
でも、緑と黒の2色染め分け皿に何を盛ろうか、イギリスのアームチェアで何の本を読むかな、古布(織物)をタペストリーにして、シャネルも認めたホームスパンを壁に飾って…。
昭和の古民家(古いだけの家ですが)の我が家に合うな。
ここに飾ったらいいなとかそんな想像が出来るのが、今回展示されていた民藝の作品達です。
会場は、国内外各地の選りすぐった陶磁器、染織、木工、蓑、ざるなどの暮らしの道具類や民画のコレクションとともに資料や出版物、写真まであり民藝運動の足跡もたどっています。
美は生活の中にある
会場の作品や資料は、「民藝」の思想を体現したものです。
民藝とは、「民衆的工芸」の略語で、民藝運動の父と呼ばれる美学者であり宗教哲学者の柳宗悦(むねよし)と陶芸家の浜田庄司、河井寛次郎らによって大正時代に造られた言葉です。
柳宗悦といえば、子息・工業デザイナー柳宗理の作品もあり、彼のデザインしたカラトリーや調理道具が好きで、かれこれ10年以上使ってます。
その柳宗悦、浜田庄司、河井寛次郎が提唱し、展開したのが「民藝運動」
民藝運動は、「美は、生活の中にある」と焼き物、染織、漆器、木竹工、日用雑器など日常的な暮らしの中で使われてきた名もなき作り手による日用品の中に美を見出し世に紹介。
それらを通して、生活や社会を豊かにしていこうという「活動」であり、「思想」です。
民藝は、風土に根差した生活の中で使われている工芸品に美しさと価値を見出す「用の美」というのがポイントとなります。
それは、民藝運動が展開される前までは、工芸界は華美な装飾を施した「観賞用」の作品が主流でした。
なので、美術的な価値も低く、高価な美術品でもなかった無名職人が作った日常雑器、日用品などの工芸品は、美術界では無視されていました。
「用の美」は、そんな状況に対するアンチテーゼであり、誰一人価値を見なかったものに美しさを見出して光を当てたのが柳達の民藝運動です。
柳は、全国各地を周り蒐集した工芸品を広く公開するため「日本民藝館」を開設し民芸運動の拠点とし現在まで続いています。
また、全国の職人とネットワークを築き、新作を手掛けて販売。
著作物を刊行するなどメディアを利用して民藝の理論を実践し世に広めました。
手仕事の国
当初、柳は、朝鮮半島に渡り仏像や陶磁器などの美しさに魅了されました。
しかし、日本にも埋もれた種類豊かな民藝品が各地にあることを知りそれらを発掘していきます。
南北に長い島国日本は、それぞれの地域ごとに気候風土の違う生活文化があり、そこで生み出された様々な民藝品があります。
江戸時代には長きに渡る鎖国政策や、藩制度の中で各藩が、自国の産業や文化の育成に力を注いだ結果、日本に独自の工芸文化が生まれ、各地に地方色豊かな民藝品の数々が生まれました。
柳は、そんな日本こそ民藝の宝庫であり、「手仕事の国である」と考え日本各地の民藝品の調査、蒐集のため、日本全国を精力的に旅しました。
目利きでお洒落
柳宗悦が、着たツイードの三つ揃いや蝶ネクタイ、ホームスパンの羽織ものや作務衣が展示され、どれも今、見てもお洒落でダンディです。
浜田庄司、河井寛次郎らと日本各地を旅するときに朝鮮製透かしの入ったべっ甲の眼鏡、作務衣に台湾麻袋などを身に着けていたため、地方では、3人の井出達が目立って警官から職務質問を受けるほどでした。
でも、これは戦略です。
お洒落だけではなくて身に着けているものも「民藝」に関わるものだったので、それを民藝の指導者が着ることで「歩く広告塔」のような役割を果たしていました。
これも、民藝運動の1つで、民藝の思想の普及に貢献していたのかと思います。
(今でいう「インフルエンサー」?かな)
柳の使った書斎の机や椅子などのインテリアもモダンで美的センス抜群
民藝運動の指導者の中では唯一作り手ではなかったが柳ですが、自分でスケッチを描き、図面を引きフォントまで作ってしまうほどのクリエーターでした。
探し当てた民藝の品々が素晴らしいのは、目利きなうえにそんな天性のセンスがあったからでしょう。
でも、天性のものだけではなく、常にアンテナを立て、研ぎ澄まされた感性で各地の名もなきもの達を名品へと仕立てていったのは、柳の情熱と努力があったからです。
民藝は、サステナブル
柳達が民藝運動を展開したのに当時、工業化が進み、大量生産の製品が少しずつ生活に浸透してきたという時代の流れも関係しています。
安価で、画一化した工業製品によって、失われて行く日本各地の「手仕事」の文化を案じていました。
大量生産、大量消費という物質的な豊かさだけでない幸せな生活とは何か。
少し先の未来へ向けてオルターナティブな模索を民藝運動を通して追求したのではと思いました。
民藝の作品を見ていると古さを感じさせず、使い込んで経年美化していくものもあります。
時代の古いものでも新しいです。
使い捨てでなく、長く使えるものばかり。
シンプルで飽きがこないから、結局、長く使い愛着が湧いてくるから大切に使う。
大量生産、大量消費の時代に生き、ファストフード、ファストファッションに馴染んだ私からすると1世紀も前の民藝運動こそ、「サステナブル」な取り組みではないかと思ってしまいます。
素材、実用性、メンテナンス、コスト…。
民藝は、人にも自然にも優しく地球環境に負荷を掛けない持続可能なものです。
持続可能な社会や暮らしとはどのようなものか、民藝の思想にもヒントがあるのではないとふと思いました。
民藝の品々
今回の展示会は、柳らが美を見出したものの展示だけではなく、民藝運動から思想に高まるまでの足跡を追っていたのが特徴的でした。
けれど、民藝の展覧会に初めて行った私は、柳らの感性と嗅覚を駆使して集められら民藝の作品に目がいきます。
それらは、大事に愛でるだけではなく、今すぐ家に飾ったり使ったり出来そうで、日常にあるといいなあと思うものばかりでした。
観賞用としても美しいのだけど、どの時代にも使いやすく、使い手への思いやりがあって、生活に寄り添ってくれるものです。
陶器や織物、籠、古い布、民藝家具など作者不明なものも作り手の知恵や技術、温もりが感じられます。
いつの時代にも愛される普遍性と日常で使って残せる実用性に遊び心もあり、そんな懐が深いものに惹かれるのは世の常なのでしょう。
しぼり菜リズム(まとめ)
「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」の会場の作品や資料は、「民藝」の思想を体現したものです。
民藝とは、「民衆的工芸」の略語で、柳宗悦(むねよし)、浜田庄司、河井寛次郎らによる造語で、彼らが提唱し、展開したのが「民藝運動」です。
民藝運動は、「美は、生活の中にある」と日用品や日用雑器など日常的な暮らしの中で使われてきた日用品の中に美を見出し世に紹介し、生活や社会を豊かにしていこうという「活動」であり、「思想」です。
これまで、華美な装飾を施した「観賞用」の作品が主流だった工芸界に対して、民藝は、風土に根差した生活の中で使われている工芸品に美しさと価値を見出す「用の美」を主眼とし、見捨てられたものにも光を当ててていきました。
柳らは、全国各地を周り蒐集した工芸品を広く公開するため「日本民藝館」を開設し民芸運動の拠点とするほか、著作物を刊行するなどメディアを利用して民藝の理論を実践し世に広めました。
素材、実用性、メンテナンス、コストと民藝は、人にも自然にも優しく地球環境に負荷を掛けない持続可能なもので、民藝運動は、「サステナブル」な取り組みです。
民藝の品々は、どの時代にも使いやすく、使い手への思いやりがあって、生活に寄り添ってくれるものです。
作り手の知恵や技術、温もりが感じられ、いつの時代にも愛される普遍性があります。
■柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年
- 国立近代美術館
- 2021年10月26日(火)~ 2022年2月13日(日)