『庵野秀明展』が国立新美術館で開催されていて、行って来ました。
庵野秀明は、『新世紀ヱヴァンゲリオン』(以下『ヱヴァ』)シリーズや『シン・ゴジラ』を制作、『風の谷のナウシカ』の巨神兵登場のシーン担当、その他『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』などを手掛けた日本を代表するアニメーター、監督、映像作家です。
庵野作品で私が見たのは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と『シン・ゴジラ』です。
初見で、訳分からなくて『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』を2回見た。
展覧会は、「アニメ」「特撮」作品の原画やミニチュア、アマチュア時代から現在までの直筆のメモやイラスト、脚本、ラフスケッチ、画コンテ、原画、映像、ミニチュアセットまで膨大な量の展示でした。
動画や一部を除いて撮影可だったので、写真で撮った展示物も紹介しながら感想などを書き留めました。
庵野秀明の原点
「庵野氏を作ったもの」のコーナーでは、庵野秀明の原点である幼少期に夢中になった『ウルトラマン』や『仮面ライダー』、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』など60年代、70年代の特撮、マンガ、アニメなど庵野氏が影響を与えた作品やフィギュア、資料を展示していました。
『ウルトラマン』『仮面ライダー』『宇宙戦艦ヤマト』
庵野氏と同じ年の私にもどれも懐かしいものばかり、同じ時期に同じものをテレビにかじりついて見ていたのかと思いました。
でも、私と庵野氏が違って凄いのは、これらの作品にただ影響を受けただけでなく未来には自分で作る側になっていったことです。
見る側だった少年が、アニメや特撮物のマニアとなりそれを自分でも作るようになって、遂には敬愛する『ウルトラマン』や『仮面ライダー』を新たに『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』としてメジャー作品にしてしまいます。
大人になるまで(なってからも)自分の好きなものだけを存分に浴び吸収してきたのがよく分かるコーナーでした。
(庵野氏の嗜好もよく分かります。)
庵野氏は、自分の「好き」を追求して、頂点を極めた一握りの人です。
人知れない苦悩もあったみたいですけど、今度生まれ変わるとしたらこんな人生送りたいなあなんて思いました。
「オタク」の趣味が高じて「真のオタク」になっていった庵野氏の創作の原点が詰まっていました。
アマチュア時代の作品
第2章では、無名だったアマチュア時代の作品を展示していました。
(これだけのものを断捨離しないで、取って置いたのですね)
これは、庵野氏が中学生のときに描いた油絵です。
庵野少年は、この頃から『ヱヴァ』にもよく出てくる電柱、電線、信号機、遮断機、道路標識、街にあるロゴなど日常的なもののモチーフを描いていたことに感銘。
これは、入り口付近にあった庵野氏の両親が仕事で使用していた「足踏みミシン」。
庵野氏が初めて身近に「メカニズム」を意識したといわれるのが、この足踏み式ミシンの動きだっだようです。
私の実家にもありましたが、足踏みミシンンの動きは確かに魅力的で母がミシン掛けをしている様子を傍らでよく見ていました。
(私は、それ以上追求することもなく興味だけで終わりでしたが)
足で上下に踏んだものが、回転して針が動いて布地を縫っていく…
こんな可視化したメカの構造が面白くて、庵野作品の得意とする後のメカの描写に影響を与えたのでしょう。
庵野氏は、高校時代に8ミリフィルムの機材を購入してから映像作品を作っていますが、特に特撮ものが好きだったようです。
中でも、「ウルトラシリーズ」の大ファンで、『帰ってきたウルトラマン』に熱中し、高じて大学時代に『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』という実写版8ミリ映画まで作ってしまいます。
会場では、このフィルムの一部を大型スクリーンで上映いていて、顔出しのウルトラマン役で庵野氏自ら出演しています。
この作品では、被り物なしの庵野ウルトラマンでしたが、撮り方の妙か違和感なくウルトラマンに見えました。
「特撮」を存分に駆使したローアングルのカメラワークなど『ヱヴァ』の繋がるような撮り方もあり「庵野ワールド」が炸裂していました。
精巧なミニチュアセット(写真のマットアロー1号や基地は紙で作ったもの)、カメラアングル、特撮を駆使した映像のクオリティーは素人の域を超えていて、実写版『シン・ゴジラ』を作った片鱗が垣間見えます。
後で、YouTubeで見てもこの作品への情熱がほとばしっているのが分かります。
ヱヴァンゲリヲンまで
20代で宮崎駿に評価され、『風の谷のナウシカ』のクライマックスの「巨神兵」登場のシーンの担当に抜擢されました。
やはり、巨神兵の爆破シーンは庵野氏の傑作であり代名詞だと思いました。
以降、メジャー作品の原画を担当し、プロのアニメーターとしての活動が本格化していきます。
私と年齢が同じなので、この頃、私はこんなことをしていたけどこんな作品を作っていたのかとか自分の人生と重ねてしまいました。
『ヱヴァ』の無機質な建造物やメカニック、破壊や爆破のシーンが素晴らしく『ヱヴァ』以前にそういったものを沢山作画しています。
アニメは、実写じゃ到底出来ない表現を成り立たせるためにあるのだと思いました。
戦車やミサイルなどに極限のリアリティを追求していています。
直筆のメモやちょっとした落書き、イラスト、イメージスケッチ、画コンテ、原画など中間に描いた資料や作品が沢山あって(ときには裏紙に書いていたり)、こういうものを膨大に残しているから今回の展覧会を開催することが出来たのかと思いました。
ヱヴァンゲリヲンへ、そして、そこから
楽しみにしていた『ヱヴァ』のコーナーにも盛りだくさんの展示物があって、突出した『ヱヴァ』の映像の美しさ、表現力はこんな過程があって出来たのかと思いました。
それらの元になる原画や細かい設定資料を見ることが出来たのが、やはり今回の収穫でした。
『ヱヴァ』完成までの過程で、こんなのも面白かったです。
これは、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に登場する「第3村」のミニチュアセットです。
2次元(アニメ)の世界を表現するのにこのように模型を作っているのは、3次元(『シン・ゴジラ』なのどの実写)も行う庵野氏ならではという感じです。
制作には、俳優が実演したものを3G化して表現したり、舞台となる場所をミニチュアセットで作って取り入れるなど、『ヱヴァ』には、2次元の表現の中に3次元的要素があるのはこんなところからきているかと思いました。
庵野秀明展
庵野秀明展で、「庵野氏を作ったもの」と「庵野氏が作ったもの」を過去から現在までの軌跡を時系列に見てきました。
庵野氏の作品で『ヱヴァ』と『シン・ゴジラ』しか知らない私には、それらの馴染み深い作品や他のものにも触れることが出来新たな発見がありました。
展示されている点数が膨大で時間が足りませんでしたが、庵野氏の「脳内」を存分に見せて頂くことが出来ました。
特に特撮技術やメカ、無機質なもの、破壊、爆破のシーンなど庵野作品の専売特許のような描写は、アマチュア時代の作品に見るように早くから開花させていたことが分かりました。
現在、庵野氏が少年時代から憧れていた作品の新作映画である『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』の制作に関わっていて、憧れを現実のものにしようとしています。
『ヱヴァ』のところまで来ると、もう『ヱヴァ』で全部出し尽くしてしまったのかなあと思いましたが、新たな庵野版ウルトラマンと仮面ライダーは、どういうものになるのか是非、機会があったら見てみたいと思いました。
■『庵野秀明展』
- 国立新美術館
- 2021年10月1日(金)~12月19日(日)