アマゾンプライムビデオで、見ることが出来る「上司」が素敵だったドラマ2選の2つ目は、『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』です。
1つ目は、↓から
二人の若者の最大の幸せは、素敵な「上司」に恵まれたこと。アマプラで見れる韓国ヒューマン傑作ドラマ2選
以下、ネタバレ注意
マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~
少女に希望を与えたおじさん
幼少の頃から光の当たることがない韓国社会の闇の中を生きて、声も上げることが出来ないし誰にも気に掛けてもらえない少女がいて、その少女に「希望」という未来を与えたのが彼女が「おじさん」と呼ぶ「上司」のパク・ドンフンです。
ただ、上司といってもドンフンは、正社員の部長で少女イ・ジアンは、派遣社員なのでどちらかというと会社での関係は、希薄です。
ジアンは、職場で存在を消したかのように振る舞い、派遣である目立たない彼女を正社員の同僚達も誰も気に掛けません。
長年、「影」のように生きてきたジアンも慣れたもので自分から積極的に誰かに関わろうとはしません。
そんなジアンが、ドンフンと関わるようになったのは、ドンフンが思わず手にしてしまった賄賂を机の引き出しにしまうところを見てからで、ここから二人の関係が始まります。
ジアンは、生活していくためのお金欲しさで、ドンフンに絡むことにもなり、そのためにドンフンの携帯電話に盗聴器を仕込んで四六時中にドンフンを「盗聴」していました。
ジアンは、覗き見的な盗聴でドンフンの言葉を聞いていますが、盗聴でドンフンの「パーソナルスペース」に介入すればするほどドンフンの不器用だけど誠実で公正、裏表がないことが分かってきます。
いみじくもドンフンを貶めるための「盗聴(器)」が、二人の心の距離を近づけるツールになりました。
そして、ジアンのことも絶対に悪く言わないで、逆に「いい子」だって言っているのを聞いてドンフンを人間的に信頼出来る人だと確信するのです。
幼い頃から親の借金と聴覚障害を持つ祖母の介護に追われ、親の借金のために周囲の大人から犯罪まがいのことも強いられてきたので人間不信になっていて、ドンフンでさえも心開くことが出来ませんでしたが、ドンフンの優しさや情に触れて、反発しながらも少しずつ凍てついた心を溶かしていきます。
感情を押し殺さないと生きてゆけない過酷な人生の中で、嬉しいとか悲しいという感情がなくなっているジアンが人間らしい感情を取り戻すことが出来たのは、ドンフンが初めて「人」として向き合い自分にも価値があると思わせてくれたからです。
今まで、哀れみで近寄って来る人はいたが皆、長くは続かないのでドンフンも同じだと思っていましたが彼だけは違いました。
ヤングケアラーでもあるジアンは、子ども期における必要な生活がはく奪され、高等教育を受ける機会もなく、人間関係の摩擦や社会や人との関わり方が希薄だったので、就職や進学など社会的自立がままならず日々、日銭を稼ぐような仕事で暮らしていました。
人間関係が希薄で社会保障の死角にいたジアンは、ドンフンに教えてもらうまで祖母を社会保障で賄える施設に入れることも出来ずにいました。
でも、ジアンは、学歴はありませんが賢くて「内力」のある強い子で、ドンフンが言うように生活苦の中で祖母の面倒を見る優しくて「いい子」です。
この「内力」というのはドンフンの建築の仕事の構造設計で使う用語で、「建物は、外力より内力が勝つように構造上設計する。」「人生も外力と内力の戦いで、内力が強ければ何事にも勝てる。」のドンフンの言葉のようにジアンは、芯のある子なのでどんな困難の中でも生きてゆくことが出来る子だと見抜いていました。
このように人を見る眼差しが深いのは、ドンフンに両親、3兄弟、妻、町の仲間達、部下の恵まれた「人間関係」があったからだと思います。
(あまにも自分の家族や仲間達と絆が強過ぎて、ドンフンの妻が疎外感を感じてしまうほどですが)
特に兄や弟の喜びや悲しみを自分のことのように感じて思いが溢れてしまうしまう兄弟や子どもの頃から住む下町のおせっかいや人情味のある人達が周りにいて、彼らの愛や絆に触れ、自らも痛みを味わってきたから他者への「想像力」と「共感力」を育むことが出来たのだと思います。
ジアンもジアンに慈しみを与えてくれる祖母がいたから生きてこれたのでしょう。
未来に向けたラスト
最後は、祖母が亡くなって祖母の葬儀をドンフンや町の人達が協力して盛大に執り行ってくれ、ドンフンの兄が貯めたへそくりを葬儀に使うという粋な計らいがありました。
このような、ドンフンや町の仲間達の寄り添いがあってジアンは、唯一支えであった祖母を亡くした「喪失感」を一人で抱え込まなくてもすんだと思います。
最後、いつも一人だったジアンが新しい職場で同僚達と一緒にランチを食べに行くシーンがあって、「幸せに生きることで 恩返ししなさい」という生前の祖母の言葉通り、やっと「光」の当たる場所で人並みに生活をしているところを見ることが出来たのはドンフン同様我がことのように嬉しかったです。
いつも食事を奢ってもらっていたジアンが、ドンフンに「おじさん、奢ってあげる」と言ったラストもドンフンへの愛を感じていい終わり方だったと思います。
『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』というタイトルで、もっと軽いタッチのドラマだと思って見ましたが、前半は悲惨な状況でにこりともしないジアンと憂鬱そうに日々生きているドンフンの二人が暗くて、気が滅入りそうにそうになりました。
でも、ジアンが心開いていく過程やドンフンや周りの人達が暖かさに次第に引き込まれ、全体的に映画を見ているような余韻があり、終わってみるととても骨太で肉厚なドラマだと心に残りました。
ジアン役のIU(アイユー)の出だしから陰のある特殊なバックグラウンドを匂わせる演技も素晴らしく、ドンフン役のイ・ソンギュンの声がとてもいいので声を聞いているだけで心地よかったです。
しぼり菜リズム
『ミセン-未生-』と『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』は、主人公を囲む心ある人達がいて、その先には「光」があるドラマです。
2つのドラマを見て、一人の人間として向き合って暖かな眼差しを向ける大人が周りにいれば、人間困難に立ち向かえるのだと思いました。
主人公2人は、家庭の事情で自分の夢を諦めたり日々の生活を守るため、不本意に生きざるを得ない境遇にあってもオ次長やドンフンのような上司や仲間達がいれば人生を変えることが出来るのだと希望が持てます。
ともに二人は、賢くて人の痛みも分かるから仲間も寄り添ってくれるし自分で人生を切り開いていけるのだと思います。
「悪者」にもそうならざる得ない背景があることも描かれていて、良質なエンターテインメントは、作品に共感するだけではなく、2つのドラマのように「人生とは、何だろうか」と「自分は、どう生きたらいいのか」と改めて考えさせられるものであると思いました。
それにしても、オ次長やドンフンのような人こそ会社に残って人を育てて欲しいと思うのだけど、社内政治に疎かったり権力に迎合しないタイプの人間はやはり難しいのでしょう。
1.2