初老のおじ様が主人公の映画をアマゾンプライムビデオで最近二つ見て、そのおじ様の描き方が対照的で興味深かったので感想として書いてみました。
映画は、『マイ・インターン』(ロバート・デ・ニーロ、アン・ハサウェイ主演 2015年アメリカ)と『わたしは、ダニエル・ブレイク』(デイヴ・ジョーンズ主演 2016年イギリス)です。
あらすじ
以下、ネタバレ注意です!
マイ・インターン
『マイ・インターン』のロバートデニーロ演じるベンは、リタイア後、妻亡き後に悠々自適な生活に明け暮れていたが充実感を得られませんでした。
しかし、ひょんなことから、ジュールズ(アン・ハサウェイ)が経営する会社のシニアインターンになって新たな転機を迎えます。
会社では、最初こそは老齢のため疎まれますが、すぐにベンの努力や年の功、持ち前のコミュニ力で若い社員達との距離を縮めていき、社長とも信頼関係を作っていきます。
ベンは、親子ほど年齢が違う女社長の公私に渡ってよき仕事相手、相談相手となり、社長を精神面で支えて仕事と家庭の両立を手助けして救います。
最後は、インターン先の会社で出会ったマッサージ師の女性と恋人同士になるというおまけ付きです。
わたしは、ダニエル・ブレイク
『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、2016年のカンヌ国際映画祭で、最高賞パルムドールを受賞した、イギリス社会の不合理を描いてやまないケン・ローチ監督作品です。
初老のダニエル・ブレイク(デイヴ・ジョーンズ)は、心臓病を患い医者から止められて大工の仕事が出来なくなりました。
稼ぐことが出来ないので、国からの援助を受けようとするも、複雑なお役所の制度のため援助を受けることが出来ないでいました。
同じように福祉の恩恵を受けることが出来ない貧しいシングルマザーのケイティと出会い、2人の子どもを助けて交流を深めていきます。
しかし、役所的な複雑なシステムや理不尽な対応で社会的弱者であるダニエルやケイティ達を日々、切迫させていきます。
最後、ダニエルは、建前だけの福祉システムに不服申し立てを行いますが、病気のために志半ばで亡くなってしまいます。
二人の人物像
シニア優等生のベン
『マイ・インターン』のベンは、「リタイアシニア」の優等生です。
年齢に関係なく新たな挑戦をして、自ら新境地を切り開きます。
今回、それの新天地(会社)で新たな出会が始まり、その出会いが相乗効果を生みベンもベンに関わった人達もいい方向に作用していきます。
ベンは、元々、経済的にも恵まれ、趣味を満喫して、折り目正しく清潔に暮らし、狭いコミュニティながら人にも恵まれて…という豊かな老後を満喫していました。
傍から見れば、何不自由ない生活ですが、ベンは、これだけでは心は晴れなかったのです。
そこで、新たな挑戦として、自分のPR動画を作り、シニアインターンに応募して社会人となり社会との接点を持つことで精神的にも充実していきます。
会社では、元々備えているコミュニ力を生かし、ゼネレーションギャップのある会社の若い社員や女社長ともお互いの不得意な部分を補完しながら会社での居場所と信頼関係を築いていきます。
おまけに恋人まで出来るという結末で、パーフェクトというか理想的過ぎます。
本人の努力にもよりますが、ベンは、人柄が温厚で、誠実で分け隔てない傾聴力を備え軽妙な洒脱さも忘れないという本当に理想的なというより模範的な紳士です。
社長や若い社員達の悩みに自分の人生経験から得た冷静で的確なアドバイスはしますが、決して、出過ぎたことはしないところが人から好かれるところです。
彼を悪く言う人はいないのではというくらい、誰からも愛されて、それはまさにシニア男性の理想で、彼の年の功が上手く生かされた物語です。
不遇なダニエル
『マイ・インターン』の理想的なベンに比べて、『わたしは、ダニエル・ブレイク』のダニエルの境遇は悲惨でまさに明と暗です。
重い病気で、働けないのにパソコンが出来ないがために書類の申請が出来なかったり、電話をするもオペレーターに繋がるのに2時間弱掛かり諦めざるえなかったり、求職補償を受けるために、偽の求職活動を行わなければならなど次から次へとお役所の理不尽な仕打ちを受けます。
「ゆりかごから墓場まで」とかつては言われた社会福祉制度が充実したイギリスでしたが、現在では、弱者切り捨ての福祉システムに変わり果て、生活保護や休業補償を受けるためには高い壁が立ちはだかります。
その壁を乗り越えようとダニエルは、何度かトライしますが上手くいきません。
ダニエルは、大工一筋の職人気質で申請に必要なパソコンが使えません。
人をあまり頼ろうとせず、頑固なところもありますが、必要に迫られて近くの人に教わりながらも初めてマウスの使い方を学び前に進もうとしています。
ダニエルは、仕事仲間から信頼も厚く、職人としての腕もよく、ヤンキーな隣の若者とも仲良く出来る心優しい人物です。
何よりもダニエルは、困っている人がいれば、自分のことはさておいて助けようとします。
自分の生活すら余裕がないのに、困ってるシングルマザーと子ども達に見返りを求めず救いの手を差し伸べて、一時は、身を持ち崩したシングルマザーは、彼の友情で立ち直ります。
ダニエルおじさんが、愛しい
この二つの映画は、全くテーマも趣も違いますが似たような年代の男性が主人公になっていてつい比較してみたくなりました。
ベンは、ホワイトカラーとダニエルは、ブルーカラー、健康的で経済的に恵まれた生活と病身で逼迫した状況と二人の置かれた境遇はあまりにもかけ離れています。
二人の男性に共通しているのは、ずっと真面目に実直に仕事をして、税金を払い生きてきて、きちんと奥さんの介護をして看取ったことです。
そして、自分の培った優しさというものがあり、困っている人がいれば、耳を傾け助けます。
それぞれ、隣人や仕事仲間とコミュニケーションを取り良好な関係を築いているので、周りの人からも愛されています。
境遇こそ違えど二人ともとっても素敵なシニアなのですね。
でも、私は最後不遇な死を遂げたダニエルおじさんにより愛を感じるのです。
どこにでもいそうな労働者の風情の初老のおじさん(お爺さん?)でありながら、人柄のよさを滲ませて、どこまでも人間臭くてリアルを感じるのです。
困っている隣人には、当たり前のように手を差し伸べることが身についていて、どん底の一家族を助けたのも、彼にとっては日常的なことなのです。
ベンは、職場や町内会やサークルにいたらいいなあという素敵なおじ様ですが、あくまで、理想なのですね。
ベンのようなシニアになりという憧れの人なのですね。
しかし、ダニエルはベンのようにな模範となるようなシニアではなく、器用さやスマートさもなく不条理に怒り思い余って職安にスプレーで落書きをしてしまったり、口も悪く悪態をついたり、自虐的に振る舞うという決して立派な大人ではないのです。
でも、ディブ・ジョーンズという俳優さんの魅力もあるかもしれませんが、どこまでも誠実で、人としての正しさを滲ませていて、それでいてチャーミングで人間的な魅力を感じるのですね。
ダニエルは、嘘はつけないし、あけすけで正論を言いいます。
生き方が、不器用でうまく立ち回れないがために働けないのにお金がもらえないのです。
「私は依頼人でも、顧客でも、ユーザーでもない。怠け者でも、たかり屋でも、物乞いでも、泥棒でもない。国民保険番号でもなく、エラー音でもない。きちんと税金を払ってきたそれを誇りに思っている。地位の高い人には媚びないが、隣人には手を貸す。施しは要らない。わたしはダニエル・ブレイク。人間だ。犬ではない。自分にはダニエル・ブレイクという名前があり、数字に置き換えられる存在ではない。当たり前の権利を要求する人間だ」
ダニエルの葬式で、ケイティの読み上げた彼のこのメモの文章からも分かるようにダニエルは、人間としてはしごく真っ当で、人としての尊厳とプライドを死ぬまで持ち続けました。
社会のルールを守り必死にしっかり生き、社会の片隅ですが、矜持を持って生きた誇り高い人といえるでしょう。
そういう生き方をしたからこそ、彼の葬式には本当に彼を想う人のみが参列し心から死を悼んだのです。
映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、社会派のケン・ローチ監督が描きたかったのがイギリスのセーフティネットとして機能していない弱者切り捨ての福祉システムで、これをダニエルやケイティを通して痛烈に批判したものです。
失業者手当や生活保護の蚊帳の外になったダニエルが、ただの善良の一市民としてだけではなく、この映画で魅力的だったからこそケン・ローチ監督のこのような人達こそ手を差し伸べなければいけないという不条理に対する怒りが強く胸に刻まれたのです。
二人から学ぶこと
最後は、社会と接点を持ち人から必要とされ幸せを掴んだベン、セーフティネットからはじき出されてしまったダニエルと二人の人生は明暗を分けてしまいました。
でも、隣人を大切にし人から愛された二人から学んだことは、どんなに世の中になっても、最後は人と人との関わり、向き合うことが重要だということです。
シニアになっても新たなことに挑戦して、その場所で一生懸命頑張る。
新しい友人を作り、自分を大切にする。
人の話をよく聞いて、友人を大切にする。
老後、社会との接点を持つことや人から必要とされることは生きるためのエネルギーなりますが、これが可能となるのは、新たなことに挑戦したり、積極的に人と関わることなのだと思います。
これは、ベンの場合ですが、身なりや身の回りを清潔にして自分の持ち物に愛着を持つ。
清潔なハンカチは、常に携帯するというのも参考になります。
しぼり菜リズム
映画『マイ・インターン』と『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、テーマも人物の描き方も結末も全く違いますが、映画のシニアの男性の主人公の生き方が対照的で面白いです。
ベンとダニエルのそれぞれの同年代の魅力ある男性の生き方に魅了されました。
特に『わたしは、ダニエル・ブレイク』の融通が利かないけれど人としての正しさを滲ませていダニエルが、愛おしくて物語がよりリアルな実態として迫り胸を突きました。