低予算のリモートドラマ?
『ホーム・ノット・アローン』NHKは、2分×5話の10分間のドラマで、出演者は自宅からのリモート出演になります。
タイトルに勝手に「低予算ドラマ」だと決めつけてしまいましたが、
Wikipediaによると
出演者とスタッフの間をリモートで接続して出演者が自らスマホのカメラを回し、企画立ち上げから制作をして約1か月の短期間で放送に漕ぎつけたそうです。
なので、製作費は通常のドラマに比べて大幅に少ないことは、間違いないですよね。
出演俳優の自宅が舞台なのでカメラのセッティングや小道具の配置などは自ら行ったので、照明の点灯や消灯を忘れて前のシーンと繋がらなかったり、余計な影が映り込んでしまうなど「リモートドラマ」ならではのNGもあったそうです。
NHK大阪が制作、脚本は、桑原亮子、出演は、桜庭ななみ、松下洸平になります。
連続テレビ小説『スカーレット』の出演者二人が主役なのですね。
メイキング映像で、洸平君が、間違えて、ななみちゃんのことを『スカーレット』の役名の直子と呼んでしまった(その妹の百合子というのもあった)のが笑えました。
『ホーム・ノット・アローン』
以下、ネタバレ注意!
ストーリーは
アパレル関係の仕事で在宅勤務している一人暮らしの田中くみ子(桜庭ななみ)は、マンションのドアノブが壊れて部屋に閉じ込められしまい助けを呼ぼうと修理屋に電話を掛けるも、電話に出たのは常林(松下洸平)という見ず知らずの居酒屋の店主でした。
この間違い電話を機に二人は、電話で話をするようになり、次第に距離を縮めていきます。
間違い電話の男女の出会いから、お互いの身の上について語り始め
リモートで、オンライン晩さん会を開き一緒に食事をします。
来春の服のデザインを考えるくみ子は、オンラインファッションショーを開きますが、自分が携わっているアパレル(ファッション)仕事は、「不要不急」なのかと空しくなっていました。
常林も、長期の休業から居酒屋の閉店を考えて、「閉店」を知らせる張り紙を作るほど追い詰められていました。
緊急事態宣言の中、日本中で「不要不急」という言葉が叫ばれている時期だったので、二人の仕事は、不要不急なのかと共に悩みます。
でも、二人は、会話を重ねていくうちに
オーケストラの中の「シンバル」のように自分の出番が来るまでは、力を蓄えて待っている不可欠な存在があり
自分達の仕事も決して、シンバルのように不要な仕事ではないだと前向きな気持ちになっていきました。
常林は、書きかけの「閉店」を知らせる張り紙をくしゃくしゃにした丸めて、もう少し居酒屋を続けてみようと気持ちを切り替えます。
くみ子は、今年着る機会がなかった服を来春の服とコラボさせる企画を考えることに希望を見出しました。
そして、この自粛期間中は、出番が来るときに備えて力を蓄える期間だと考えを改めて、二人はいつか自由に会える日に思いを馳せるのでした。
距離が近づいて、いつか会うのだろうと予感させる
このドラマの見どころは、まず、他人同士だった二人の距離が1話ごとに近づいていくところです。
画面上では、二人が交互に画面に写っていたのが、心の距離が縮まった瞬間には画面が同時に並び、最後は同じ一つの画面に…。(なる瞬間で、終わった)
語らない表情にもそれがよく、出ています。
唐突(びっくり水)な間違い電話に迷惑気味だった常林も2日目くらいからは、既にくみ子に好意的になっているのが表情から見えて微笑ましいです。
常林が、「可愛い服着てる!」と褒めるとくみ子は、嬉しくて「もう一回、言って下さい」とスマホの前に飛んできてお願いするも
女心を見逃した常林は、しれっと「今、忙しいですか?」とひとつ前のセリフを言ってしまい、その期待外れのセリフに落胆したくみ子の表情が何とも可愛いかったです。
最後の塩を入れ忘れて美味しくない(常林からレシピを教わった)ペペロンチーノ食をべるくみ子は、不味そうに食べながらも何だか嬉しそう。
そして、距離の縮まった二人の今後の関係性を示唆するような展開もいいのです。
くみ子の「見えてるからこそ、余計に遠い」いう言葉には、実際に会ってみたいという常林への思いであり
常林の「上手く出来てる予告編ほど、見れば見るほど本編を見たくなる」という言葉は、くみ子にもう会いたいというメッセージそのものです。
互いに画面越しではなく、直接会いたいという気持ちが伝わってくるセリフに加え、言葉以上に心の動きが、二人の表情から伝わります。
これから先も二人の関係が続くと想像させ、きっと小さなモニター越しじゃない世界(常林の居酒屋で、ペペロンチーノ?)で出会うのではないかと二人の今後に余韻を残しました。
創作の原点
映画『カメラを止めるな』も300万円の低予算で作られて話題になりましたが、このドラマも低予算(違っていたらゴメンナサイ)ながら充実したものになっています。
計10分の短いドラマの中で、今、私達に必要なものや大切にしたいものを凝縮して描いています。
作れられたセットもなく、スマホの限られた画面だけで演じるのが二人だけ。
その二人が、声と表情だけで演じているというとてもシンプルな作りです。
通常のドラマに比べて、ないない尽くしですが
お互いの心が見えるようにと選び抜かれた言葉を紡いだ桑原亮子の脚本も貢献して、伝えたいメッセージは雄弁に語られています。
このよう何もない中、創意や工夫次第でいい作品は出来るだと、改めて創作の原点を見たような気がしました。
ペスト後に「ルネッサンス」が花開いたようにこういう状況下だからこそ生まれる創作もあるのかと思いました。
しぼり菜リズム
温かくて、ちょと切なくて、余韻を残すショートストーリー
このドラマでは「不要不急こそが、人を豊かにするものではないか」「人とのつながりで、救われることがある」「世の中は、人と人がつながっていて、決して一人ではないとう」メッセージも込められています。
同時にコロナ禍で、二人が悩んでいることと同じ悩みを持つ人にも寄り添うドラマでもあります。
優しい洸平君の声と段々と綺麗に見えてくるななみちゃんに癒されてこの「不要不急」のドラマで心が、ほっこりとしました。
『ホーム・ノット・アローン』は、NHKプラスで、6/7(日) 午前2:15 まで配信しています。