美空ひばり
NHK『よみがえる美空ひばり』で、AIで30年前に52歳で亡くなった「美空ひばり」さんの歌声を再現する舞台裏を描いたドキュメンタリーが放送されました。
昭和の歌姫美空ひばりさんの歌声を「AI」に学習させて、『川の流れのように』の作詞をした秋元康氏が、作詞、プロデュースした新曲『あれから』を歌う試みを追った番組です。
ひばりさんは、子どもの頃から『紅白歌合戦』でトリを務める「スゴイ歌手」という印象で、特に好きでも嫌いでもありませんでした。
ただ、子どもの私でも佇まいや歌い方など圧倒的な存在感とオーラがあり、ひばりさんが歌っているとテレビにくぎ付けになった記憶があります。
子どもの頃や若い頃は「演歌」が好きではなかったので、歌が旨いと言われても美空ひばりさんの歌の魅力がよく分かりませんでした。
AI美空ひばり
このNHKの企画は、美空ひばりさんをAIでよみがえらせて、秋元康氏が作詞をした新曲『あれから』をお披露目することです。
歌声作りは、歌声合成ソフト「ボーカロイド」を開発したヤマハのエンジニアが担当しています。ボーカロイドは、楽譜と歌詞を与えると、コンピューターが歌にしてくれるコンピューターシステムです。
エンジニアは、バーチャルアイドル「初音ミク」を開発した人達です。
レコード会社に残る歌声や映像データーを元に最新のAI技術で、美空ひばりをよみがえらせます。歌声は、AIが過去の楽曲を学習していき、その音声データで、美空ひばりさんの歌声を再現していきます。
振り付けは、美空ひばりさんに共に関わった天童よしみさん、衣装は森英恵さんが担当しました。
AI美空ひばりで、一番苦労したのが、歌とセリフです。
新曲『あれから』は、ひばりさんが実際に歌ってきた曲とは全然違うのでこの現代の曲を、AIに歌わせようとする作業には、苦労したようです。
そして、歌の他に「よく頑張ったわね」「私の分まで頑張って」という空から語り掛けるセリフが入ります。
ひばりさんが生涯歌ってきた中で「セリフ」の入る曲がほとんどなくデータが不足しています。『悲しい酒』のセリフでは、悲壮感が出てしまいます。
そこで、ひばりさんの息子さんに協力してもらい、ひばりさんが息子さんに童話の読み聞かせをしているカセットテープの音源、我が子に対する自愛に満ちた語り口をAIに学習させました。
ひばりさんの後援会の人達にAI美空ひばりを聞いてもらいました。
しかし、後援会の人達の反応は、AIの歌声では、歌詞が分からない。本来のひばりさんの歌声は言葉がはっきりしていて、声が持つ独特の力があるのにAIにはないと当初の段階では酷評されました。
作詞の秋元氏も、楽譜通りに的確にデータ通りの歌い方ではなく、もっとひばりさんには人間臭さや温かみ、「雑味」があるということでした。
美空ひばりの歌声の秘密
このドキュメンタリーを見て思ったことは、やはり美空ひばりさんの歌は、すごかったのだということです。
今まで、ものまね番組などで、歌唱力のある芸人さんがひばりさんのものまねをしますが、やはり本物のひばりさんには誰もかなわないと思っていました。
「人に感動を与える歌声にするには」ということを音声チームが追求していく過程でもひばりさんの歌声のすごさや、秘密が解き明かされていきます。
専門家に解析してもらうと、ひばりさんの声に「高次倍音」と呼ばれる特殊な音があることが分かりました。
歌声の音の高さを示す周波数は、主に1,000Hz~5,000Hzで構成され他の歌手もこの周波数です。ところがひばりさんの声には、元の音の周波数より何倍も高い数オクターブ上の7,000Hzを超える高次倍音が含まれていたのです。
7,000Hzというのは、かなり高い周波数ですよね。これに加えて、ひばりさんは、その高次倍音と複数の音を同時に出して、一人で「ハーモニー」を奏でていたというから驚きです。
高次倍音を曲の必要な場所だけに、聞く人にはそれと分からずピンポイントで出していたということです。そして、ひばりさんが天才だというこのは、それを意識してやっているのではなく自然に出しているのではないかということでした。
高次倍音と一人で二つの声を出す手法は、モンゴルに伝わる伝統的歌唱法「ホーミー」が有名だそうです。聞いてみると舌を特殊な形で動かして低いうなり声とかん高い音を同時に出す歌声は、とても幻想的です。
神秘の歌声、七色の歌声などと多くの人を魅了するひばりさんの歌声の秘密が今回、解き明かされて、ひばりさんが、今尚、輝き続ける昭和の大スターなのかが分かりました。
よみがえった美空ひばり
後援会の人達と秋元康氏の評を受け、再度、音声チームは「AI美空ひばり」の歌声に挑戦します。
「高次倍音」に加え、もう一度ひばりさんの声を聴き直していくと、ひばりさんの歌には、楽譜に対して、音程やタイミングのズレが随所にあることを発見しました。
このタイミングや歌い方の癖などを再度、ボーカロイドAIに学習させて、新しい設定で新曲『あれから』を歌わせてみました。開発から1年、AIの歌声が、美空ひばりさんの歌声に近づいてきて関係者やファンにお披露目をしました。
結果、よみがえった美空ひばりに関係者やファンの方、皆、感動していました。涙を流している方も多かったです。
ステージ上に「AI美空ひばり」のCG映像が登場したときは、遠目で見れば美空ひばりに見えるかなあなどと思っていましたが、AIに「魂」が宿るのですね。歌い出すとまるで、美空ひばり本人そのものでした。
しぼり菜リズム
子どもの頃は、そのすごさや魅力がいまいち分からなかったのですが、今回のドキュメンタリーを見て美空ひばりさんは、改めて、いえ私の場合は、(お恥ずかしいですが)初めて偉大な歌手だったことを知りました。
今回の企画で、往年のファンや関係者は、天から降りてきた「美空ひばり」に会えたことで再び感動をもらいました。
新曲のリリースで、生前の「美空ひばり」を知らない世代の新しいファンも増えるのではないでしょうか。