早朝から行列の出来る和菓子屋
夜も明け切らない東京吉祥寺の早朝の商店街に出来る行列。
この1日限定150本の「羊羹」を求めて並ぶお客さんの列は、40年以上に渡って途切れることがありません。
吉祥寺の和菓子店「小ざさ」の朝の風景は、テレビなどメディアでも取り上げられるほど有名です。
小ざさの羊羹は、店の開店前には売り切れてしまうので、昼間お店に行ってもお目に掛ることが出来ない「幻の羊羹」です。
小ざさの羊羹は、なかなか手に入らないレアな商品ですが小ざさのもう一つの商品である「最中」を食べる機会がありました。
最中を食べて、何故、羊羹に早朝から並ぶのか。
羊羹と最中しか売っていないのはどうしてかなど何か「ストーリー性」がありそうだたのでネットで調べているいると小ざさの社長である稲垣篤子さんの本があったので読んでみました。
最中を食べながら本を読む
本のタイトルは『一坪の奇跡-40年以上行列がとぎれない吉祥寺「小ざさ」味と仕事』(稲垣篤子著 ダイヤモンド社)
ネットでは、「1坪年商3億円の奇跡」みたいな紹介の仕方が目についたので何か経営戦略的なことを書いたものかと思いましたがそうではありませんでした。
小ざさは、本のタイトルにもあるように店舗が1坪しかありません。実際店舗に行っみても間口が小さく見逃してしまうようなお店です。小さなお店ですが、客足が絶えず活気があります。
羊羹は、開店前に売り切れてしまうので実質、店舗で販売しているのは最中だけで対面販売をしています。
本に書かれていることは、小ざさの羊羹や最中に対する「極み」を追求する達人の真摯な仕事ぶりです。父から子へ受け継がれる妥協を許さない仕事ぶりが、結果的に繁盛店として成功しているというのが本を読んで分かります。
「モノづくりの原点」が、たくさん詰まった本でこの本を読むと小ざさの羊羹と最中を食べたくなります。
小ざさの最中
羊羹は、朝早くから列ばないと買えませんが、小ざさのもう一つの商品である「最中」は、平日は列ばずに買うことが出来ます。
10個で915円と買い求めやすい金額なので箱入りで購入しました。手土産にも丁度いいので、お世話になっているご近所さんにも買いました。
もなかの形は「霊芝」というキノコの形です。中国に伝わる千年持つという伝説のキノコで小ざさの最中も、霊芝のように長く愛されるようにという意味があるそうです。
皮
包みを開けたときに最中の「皮」の香りがします。
最中の皮は、もち米をついて薄く焼いたもので「種」と呼びます。その種にもこだわりがあって皮は、材料のお米の美味しさと、かすかに焦がしてある香ばしさが命ということで父の代から腕のいい職人さんに頼んでいます。
種を作る業者は、「運命共同体」と職人さんが代替わりしても現在、その職人さんの息子さんに作って貰っています。
その皮に餡を詰めると、皮は餡の水分を吸ってしっとりし、最中として美味しい状態が続きます。
ある程度時間が経つと、皮の風味がなくなり餡の水分が抜け餡が固くなってしまうので、最中の場合、賞味期限が一週間と短いのです。羊羹は真空パックで、賞味期限が5か月です。
餡
皮と皮の間に僅かな隙間が空いていてちらりと餡が見えます。
ぱりっとした食感の皮に昔ながらの甘い餡。結構、甘いです。
甘いけどそれが、上品な甘さで決して後に残るような嫌な感じは与えません。この上品な甘さの秘訣は、2つあります
①砂糖の粒の大きさ
1つは、砂糖の粒の大きさです。
まろやかな甘み、上品な甘さにするためには、粒の大きな砂糖でないとならないそうです。そのために製糖会社に「小ざさ特製」の「粒」の大きい砂糖を作ってもらっています。
➁蜜漬け
炊いた豆に最初にする「蜜漬け」もまろやかな甘みにする秘訣です。
蜜漬けとは、大きな釜に炊いた豆を入れて、そこに砂糖を入れて溶かす。それを何度も繰り返し、豆と蜜がムラなく溶け合わさった状態になり、それを1日か2日置くと豆に砂糖がよくしみて馴染んだ味にすることです。
この砂糖の粒の大きさと蜜漬けによって砂糖の甘みをならしてしつこくないマイルドな甘さ(本の中では、「丸い味」)にしているのです。
小豆餡も「呉」を加えているので、豆の風味が出ていますが、この透き通った象牙色の白餡も艶やで、いんげん豆の風味を残してとても美味しいです。私は、こちらの方が好み。
出来立てのパリッとした皮が美味しかったのですが、2日置いたものもふくよかで上品な餡としっとりした皮が馴染んで美味しかったです。
1坪の奇跡
本に戻って、「こだわり続ける」ことが60年以上続く1坪の奇跡に繋がっているではないかということです。
やはり、羊羹の餡にかけるこだわりは半端ではなかったです。
「羊羹の材料は、小豆と砂糖と寒天だけ。シンプルなので味は、素材のよさと職人の腕が試される。羊羹作りは、五感をすべて使った、まさに全身全霊をこめた真剣勝負。」
「紫の一瞬の輝きから小豆の「声」を聞き、かま場を流れる空気の変化を感じ、炭が発する熱の力を感じる。」
日本には四季があって、四季が和菓子を作ってきました。
「ほんの小さな四季の変化、温度や湿度、そして風や光、色彩の変化を自分で体験し頭だけではなく身体で感じること。そうした経験を通じて五感を磨き、火加減、水加減、「間」のようなものをつかんでいく。」
と稲垣社長は、この本に書かれています。
これが、小ざさの「本質」ではないかと思いました。
また美味しい羊羹を作るには、質のよさ、粒の大きさ、熟成の度合いなど全てが揃った小豆でなくてはならない。とよりよい豆を探すために農業試験場の新しい品種の出来も調べているのです。
稲垣社長は78歳で著書を出しているので、現在は87歳になられているのか。125歳まで生きることを目標にしているので、もしかしたら現場にも出ておられるのではないと思ってしまいます。
しぼり菜リズム
羊羹は、1日150本しか作りません。
「この味」にこだわり手を掛けて全身全霊で作るには、この本数が限度ということです。これがまた「付加価値」を高めているのですね。
40年以上早朝から、行列が途切れない店。商品は、羊羹と最中だけ。お店は、1坪、年商3億
いいものを作ろうと作り続けたから結果的に年商3億円という売り上げにつながっているのです。
食べた最中には、原料本来の特色を生かし、餡の作り方にも材料の砂糖にも工夫をするという「こだわり」が詰まっていました。
1951年、小さな屋台から創業して60年羊羹を練り続けてきた筆者、稲垣篤子さんの仕事ぶり、生きざま、そのストーリーや思いが小ざさの羊羹や最中の餡に練り込まれてたのでした。
■小ざさ
- 東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目1−8
- 0422-22-7230