入院している要介護5の父に面会に行くと、丁度、PT(理学療法士)やOT(作業療法士)がリハビリに来てくれていて、ときどきその様子を見させてもらいます。
残存機能を生かしたリハビリで、歩いた父
この間は、ベットから起き上がって車椅子に「移乗」するところをやっていました。
寝たきりでは、筋肉が落ちてしまったり、認知症、褥瘡(じょくそう)、関節拘縮(こうしゅく)、低血圧、嚥下障害、心機能低下などの原因になります。
少しでも、ベットから起き上がり離床する時間を増やすことが、運動機能の維持、向上になります。
PTはリハビリを兼ねているので、ベットから車椅子に移るときは、本人が出来ることはやりながら行います。つまり、本人の「残存機能」を最大限生かしたリハビリをするのです。
残存機能とは、体に残された機能です。
ただし、体調や本人の意向を聞いて、無理はしないようです。必ず、血圧を測りやっています。
血圧が、寝たきりでほとんど動いていないので低め(起立性低血圧)でしたが、ここ2週間くらいは安定しています。
車椅子で院内を移動し40分くらい座り、食堂でテレビを見たりしていたそうです。父は、腰とお尻が痛くなり、車椅子に座っているのも40分くらいが限界だそうです。
ベットで「仰臥位」(寝た姿勢)から「端座位」(座った姿勢)になるときも自分で足を組んで、横向きになります。
そのまま、ベットをギャッチアップして、ベットの柵につかまり一部STの介助で、起き上がりが出来るようになりました。
ベットの端に座ったときも、自分で床に足が着くようにお尻の位置をずらしていました。一番、驚いたのはベットに座った姿勢から、椅子の背もたれに捕まり車椅子まで、3歩ほど歩いたことです。
椅子に手を掛けていたとはいえ、自分の足で立ったことになります。数秒ですが、久しぶりに父が立った姿を見て、この場にいた母も、思わず拍手をしていました。
筋肉が落ちてしまった足で、よく歩いたと思います。このようにリハビリの効果が出ているのは、PTやOTの方々が日々、父に寄り添って一緒に訓練をしてくれたからなのです。
車椅子からベットへの移乗は見ていなかったのですが、ベットからの移乗より介助が必要になるようでした。
車椅子でのリハビリが増えてから、父は顔色がよくなったような気がします。精気が出てきて、生命力が出てきたような感じです。
車椅子をうまく活用すれば、行動範囲が大きく広がり世界が広がります。
移動手段が増えることで、目に映る風景の変化が楽しめます。少しでも体を動かせば、生きている実感を得ることが出来ます。
全介助から、残存機能を生かした介護
私がヘルパーの資格を取ったときは、主に「全介助」の介護方法を習いました。
例えばベットで、横向きになるとき、ベットから起き上がるのも、お尻をずらすのも介助者がします。
ベットに座り車椅子に移乗するときも介助者は、相手の腰に両腕を回し、被介助者には両肩に腕を回し抱きしめてもらうようにして車椅子に「移乗させる」のです。
こうなると、「移乗させる」という介助者、つまり介護する側が主語になってしまいます。
全て介護する側が行った方が確かに効率的で、早いです。施設などの現場の限られた時間で介助をしなくてはならない場合は、このような全介助になってしまうと思います。
今、リハビリ病院で行っているのは、自分で出来ることは自分でするという残存機能を生かした介助です。
体に残された機能を使う方法だと、父の場合のように自分で車椅子に「移乗する」ということになり、車椅子に乗る「主語」が、父本人になります。
父の場合は、50%くらい介助されながらの移乗ということになります。介助者だけではなく、自分も参加して行うことで、リハビリになり、本人に達成感が出ていい結果につながるのです。
在宅の介護でも
父が、自宅に帰っても出来ることは、なるべく本人にやってもらうつもりです。
残存機能が最大限に生かせるような場面を家族が、作っていくのです。簡単にいえば、手を掛け過ぎないことです。(ネグレストは、ダメですけど)
体をずらす、手の爪を切る、ベットの上げ下げをリモコンでする、髭をそる、髪をとかす、歯磨きなど。
そして、介助が必要な場合では「やってあげる」というのではなく、「一緒にする」ということが大切だと思います。
しぼり菜リズム
「残存機能」を生かした介護は、時間も掛かり大変なことです。じれったくて家族がやってしまった方が、早いです。ましてや、本人にやる気力がないと出来ません。
しかし、在宅だからこそ出来る介護だと思います。
幸い父は、「生きる」気持ちに満ちていて、リハビリにも積極的です。そんな父と一歩前へ歩いて行くのは、やはり家族なのだと思います。