脳腫瘍を手術した父は、回復期リハビリテーション病院での嚥下機能の検査で、嚥下機能が極めて悪いと診断されました。
主治医から家族で、栄養を止めて「看取り」をするか人工栄養にするかを決めて欲しいと言われ、「人工栄養」で延命する道を選びました。
「看取り」か「延命」かを家族に委ねられた。家族が、選択したのは
人工栄養の方法
人工的に栄養を摂る方法とは、口ではないところから栄養を送る方法です。人工栄養の方法は、いくつかあり以下の3つが代表的なものです。
1胃ろう
「胃ろう」は、内視鏡を使って胃に空けた小さな穴のことです。この穴にチューブを繋いで、外から直接栄養や水分を胃に送り込みます。
2カテーテルを動脈に入れて栄養を摂る
水分や電解質や栄養素を体内に入れる「中心静脈栄養」という方法です。「高カロリー輸液療法」とも呼ばれています。
鎖骨下など中心静脈にカテーテルを埋め込み、高カロリーの輸液を入れる方法です。
3経鼻栄養
「経鼻栄養」は、鼻から管を通して栄養剤を注入します。基本的に、栄養が消化管を通るので胃ろうと同じですが、管を通す場所が違います。
父は、中心静脈カテーテルで栄養を摂ることに
人工栄養で、第一に選ばれるは一番リスクが少なく、体にとっても安全な胃ろうです。中心静脈栄養や点滴に比べて、胃ろうは消化管を使うため最も生理的な人工栄養法です。
消化管を使うので、食べる機能が回復すれば胃ろうを止めて、口から食べることが出来ます。
しかし、胃ろうにするには、父の場合は問題がありました。以前、胃がんの手術で胃を切除しているので胃ろうは出来ないということです。
「食道ろう」や「腸ろう」もありますが、食道ろうでは、逆流が起きやすく、腸の状態も父は悪いので腸ろうも主治医は勧めませんでした。
腸ろうは、手術をしなくてはならず、父の衰弱した体では無理だろうとのことです。腸閉塞も起こしやすいし、退院後の受け入れ先の施設もありません。
今まで、やっていた経鼻栄養は、胃や腸の消化管が悪い父には限界あるということです。高栄養のものを入れると気分が悪くなったり下痢をするようになりました。
経鼻栄養は、鼻から管を通すので常に煩わしさがあります。管を鼻から食道を通すので、嚥下訓練を行うにも向いていないのです。
消化管が機能していない父は、胃ろうや経鼻栄養の選択肢がなく、中心静脈栄養でカテーテルを入れることになりました。
中心静脈栄養
結局、胃ろうが出来ない父は、静脈にカテーテルを埋め込んで栄養を送るカテーテル栄養を選び処置してもらいました。それしかなかったのです。
中心静脈栄養は、心臓の近くにある太い中心静脈にカテーテルを挿入して、栄養を直接注入します。父は、鎖骨下を通る静脈から中心静脈カテーテルを入れました。
中心静脈栄養の利点
1日2500kcal程度までの栄養を投与出来るので、多くのエネルギー量を摂取することが可能です。父のように栄養状態が悪い場合にも適しています。
カテーテルを一度セットすれば、点滴のように何度も針を刺す必要がないので、痛みを最小限に抑えることが可能です。
中心静脈栄養の問題点
・受け入れ先の問題
このまま、長期間、回復期リハビリ病棟に入院していることは出来ません。在宅の介護を選択しないと、施設に入るか療養病棟のある病院に入院しなくてはなりません。
医療処置が必要なため、入所できる施設が限られます。「特養」は、入居待ち状態で、カテーテルを付けた状態での入居は難しいとのことです。
受け入れ先の選択肢が、中心静脈栄養をしている場合、少なくなります。
・感染症のリスクが高い
カテーテルの挿入で、肺を傷つける「気胸」や、出血して胸に血がたまる「血胸」などの合併症を起こしやすくなります。父の場合、胸水が溜まり肺の状態も悪いので、そのリスクも上がります。
体に異物(カテーテル)が入るので菌が入りやくなり、感染症にかかりやくなります。このようにカテーテル栄養では、合併症、感染症のリスクが高くなります。
主治医の話ではほとんどの人が、合併症で亡くなってしまうそうです。そして、年単位で生きる人が少なく、カテーテルを入れて1か月後に亡くなる方もいたそうです。
・途中で止めることが出来ない
カテーテルを入れると途中で止めることが、出来ません。カテーテルを抜くということは、「死ぬ」ということです。
本人が「もう、嫌だ抜いてくれ」と言わない限り医師や家族の意思では抜くことが出来ないのです。この辺りは、「尊厳死」の問題で倫理的なことが絡んできます。
・食べる機能が衰える
口から物を食べて胃や腸で消化し、必要な水分と栄養を体内に取り込むのが本来の姿です。
長期間、静脈栄養に頼っていると、食べるための筋力や消化管の機能は衰えていきます。
・飢餓感と拘束による負担
中心静脈栄養では、栄養剤の入った袋から管を通じて栄養を入れるため身体を拘束されます。そのため、ADL(日常生活動作)が悪くなり褥瘡などのリスクが高くなります。
身体拘束は、精神的にも負担をもたらせます。
この間、父は「お腹が空いた。食べたい」と口にしていました。口から食べる行為でない以上、飢餓感がいつもあります。
まとめ
「人工栄養」で「延命」を選んだ父は、胃ろうや経鼻栄養をすることが出来ず「中心静脈栄養」というカテーテルで栄養を入れています。
中心静脈栄養は、胃ろうのように消化管を使わないので、空腹感や飢餓感があります。中心静脈栄養は、利点より問題点の方が多く、「生きながらえる」ためのものに感じます。
中心静脈栄養をしながら、「嚥下機能」の回復のための訓練をして、口から食べられるなればと祈るのみです。