BSプレミアムNHKの番組スーパープレミアム「医師の闘病から読み解く がんを生きる新常識」を見ました。
がんを経験した7人の医師達のお話に興味も持ちました。
以前の記事は、こちら
番組の中で、印象深かった方の経験と医師ならではの選択について書いてみたいと思います。
今回は、金沢赤十字病院の副院長を務めていた西村元一医師です。
テレビで紹介された後、もう少し詳しいことを知りたくて、『余命半年、僕はこうして乗り越えた-がんの外科医が一晩でがん患者になってからしたこと-』を読みました。
西村医師は、消化器外科の医師で、専門は大腸がん。そんな西村医師が、ステージⅣの進行胃がんになりました。
消化器の医師なので、自分の専門とする分野のがんになってしまったのです。
がん発覚時、基本的には、治らない、治療をしなければ、予後半年という状態でした。
医療を裏と表、両面から見て
西村医師は、医師から一晩にしてがん患者になり、医療者目線から患者目線になりました。
今まで、教科書通りの治療や経験的な物差しで患者と接していたのが、患者の立場になって知り得なかったことを体験するのです。
例えば、抗がん剤の副作用は、自分で体験して初めて知ったと言います。
抗がん剤の副作用の味覚障害は、全ての味覚が落ちると考えていましたが、少しでも甘いものを食べただけで、甘いと感じるほど甘味に敏感になったそうです。
薬も飲みやすいように唾液で溶けたり、細かい顆粒状に工夫されているものでも、甘味に敏感な患者にとってかえって飲みにくくしているものあると自分で、苦労して知ったと言います。
これらは、患者にならなければ、分からなかったことです。
医療機関も患者側から見ると、看護師はリスク管理に忙しく患者とコミュニケーションを十分取れていないことや、業務の縦割りが進み、自分の病状を全てを把握している人が、少ないと感じたそうです。
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などがん患者でなければ考えさえしないことに直面し、そのことを医療者に知って欲しいと言います。
そして、患者も医療者も「フリ」をして、お互いのギャップを作っていると感じたそうです。
患者は、自分が選択したことが良かったフリ、医者や家族に嫌われたくないからいろいろなフリをして無理をしている可能性がある。
一方、医療者もがんになったことがないので、知っている、分かっているフリをしていると言います。
お互いフリをして出来るギャップは、医療を患者と医療者の両方を経験することで分かったことだと言います。
キャンサー・ギフト
西村医師は、進行胃がんという自分の置かれた厳しい情況の中で、単に患者として、がん治療を受けるだけでなく、医師と患者である自分ならではの役割を見出しました。
それは、医療の現場の表と裏を見て、知り得た貴重な体験を生かすことです。
自分が、がんになり、医者と患者が対等になれる場所、病院ではフォロー出来ない隙間を埋められる場所の必要性を感じたのです。
そして、残された時間を金沢マギーの設立を自分の役割、使命とするように奔走したのです。
金沢マギー設立の活動を自ら「キャンサーギフト」と呼びました。
キャンサーギフトは、がんがくれた贈り物という意味です。
がんになったからこそ、自分がすべき役割を与えられたというものです。
金沢マギー、「元ちゃんハウス」として実現
西村医師は、がんが発覚する前より、マギーズの活動に興味があり、イギリスのマギーズセンターも視察して、専門家を招いて、金沢でシンポジウムを開いていました。
マギーズは、病院の外にがん患者を支援する施設です。
専門的な知識が得られ、生活の上での知識を持った人、がん体験者、その家族、生活に近い人との繋がりを得られる場所です。
マギーズは、生活の場として、儀礼的な一方通行の情報交換ではなく、食、音楽、趣味を通じて交流出来る、がん患者や家族が、一人の人間であることが実感出来る場所です。
2016年12月、がん患者が、気軽に集える場所、金沢マギーは、「元(げん)ちゃんハウス」として開設しました。
元ちゃんとは、西村元一医師の名から取ったものです。
元ちゃんハウスの活動やマギーズセンターの詳細は、こちらから
西村元一医師は、今年5月に亡くなりました。
しかし、その遺志は、元ちゃんハウスに引き継がれています。
以前から構想は、あったもの急速に具体化し実現したのは、がんになったからこそ、周りも西村医師に賛同して、動いたからなのです。
がんになったからこそ実現できた夢が、「元ちゃんハウス」なのです。「元ちゃんハウス」まさに、西村医師のキャンサーギフトなのです。